クルマで巡る「日本現代美術私観~高橋龍太郎コレクション」

江東区は木場に位置する東京都現代美術館は、私にとって思い出深い場所だ。

なぜなら、この美術館がオープンした当時、私はここから徒歩10分弱のところに住んでいた。これまでの人生のほとんどを湘南地域で過ごしてきた私だが、4年ほど江東区で暮らしていた時代がある。木場公園はお気に入りの場所で、よく散歩に来ていた。美術館は展示室以外の場所は無料で入れるので、館内で休んだりショップを見たりしていたし、そこで買ったダイアン・クルーガーのトートバッグは長らく私のお供だった。

公共の交通機関を使うとちょっと面倒な場所だし、このあたりは土地勘もあるのでZで出かけた。江東区時代、実家から戻るのによく走った辰巳からの9号深川線だ。あの頃と今とで決定的に違うことがひとつある。それはスカイツリーがあるかないか。もしあのまま住んでいたら、スカイツリーの完成までの工程を楽しめていたかもしれない。私が江東区を出た後も、友達がこの近くに長らく住んでいたので、木場のヨーカドーの前あたりで友達を見送り、私はそのまま塩浜入り口から首都高に乗っかって帰ったものだ。懐かしい。

本来、8月の夏休みの間に夜間鑑賞を予定していたのだがコロナに罹って計画はおじゃんになり、ようやく行くことが出来た。今回の展覧会は精神科医・高橋龍太郎氏の日本現代美術コレクションで、一個人のコレクションとしては信じ難いレベル。近現代日本のアーティストの作品が写真、絵画、彫刻、映像、工芸などほぼすべてのジャンルで勢ぞろいしており、超大御所から最近の若手まで充実のラインナップ。この日も多くの人々が訪れていた。混雑はしていると言っても、スペースが広いのでそれほどストレスを感じない。

現代美術の作品はサイズも大きいものが多いので、とにかくエネルギーを吸い取られる。そして、社会的メッセージの強い作品も多く、頭も使う。でもそこがいい。それに、これだけたくさんの作品を一度に目にすると、世の中には色々なことを考えている色々な人々が存在している、という事実に励まされたりする。これは意外と大事なことで、日々淡々と面白くもない仕事を続けていると忘れがちなこと。特に今回の展示では「出る杭は打たれて」来たアーティストも多いため、昔から周囲に馴染めないことを自覚してきた人種にとっては本当にパワーを貰えるのだ。そして、やはり2011年の震災が制作活動に影響を与えたアーティストも少なくないのだなあ、と実感した。

撮影可の作品のうちで、特に気に入った作品をご紹介。

会田誠『紐育空爆之図』

天明屋尚『ネオ千手観音』

今回一番気に入った作品。パッと見、古い仏画の模写と思いきや、観音様が手に持つものは。この禍々しさが恰好いいのと同時に、今もまた繰り返される暴力の連鎖の世界を象徴しているようで絶望的な気持ちにさせられた。

小西紀行『無題』

青木美歌『Her songs are floating』

小谷元彦『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』

よく現代美術は難しいとか言われるが(絵描き仲間からもそういう声を聞いたりする)、現代美術じゃなくとも芸術は理解しようと思うこと自体が難解なのだから、作品を眺めて、そして作品の解説があればそれを読んでみて「へぇ~」とか「すごい」とか「なるほど」とか、それぞれが受け取ればいいのだと思っている。この展覧会は冒頭に草間彌生エリアが登場するが、私も集合体恐怖症なので彼女の作品群は気持ち悪くて見ていられないし、その恐怖を作品にし続けたのも受け入れられない。よって気持ち悪くなりながら素通りする。このように生理的に受け付けない作品に出会うこともあるけれど、反対に衝撃を受ける作品に出会えることもある。そんな出会いに期待して、展覧会通いをしているのかもしれない。

夕暮れ時のワンシーン。

この美術館はレストランも素晴らしく、4時間~5時間くらいあっという間にたってしまう。ちなみに駐車場は地下1階~地下3階にある。

東京都現代美術館

住んでいた頃はそれほど好きじゃなかった町だが、公園の近くは緑があり、比較的静かでなかなか良いところだと今頃になって思ったりして。

同時開催だったもうひとつの展示については次回に。