地元の絵具を作る

先日はパネルのお話を書いたが、今回は絵具についてのお話。

日本画は岩絵具とか水干(すいひ)絵具とか墨とか、他にも土絵具とか軽石とか鉄とか、様々な彩色方法がある。中でも日本画と言えば岩絵具ってくらいに、メインは岩絵具だ。読んで字のごとく、もともとは石や岩から作られた顔料。現在では人工的に造られた岩絵具も多く、色のバリエーションは豊富にある。そして、この岩絵具の厄介な部分は、同じ色でも粒子の大きさによって番号がつけられており、色味も仕上がりも変わるということ。一般に粒子が細かいほど薄い色になり、粒子が大きいほど原材料に近い鮮やかな色になる。

古代の人々は、岩や石を粉砕して絵具を作り、洞窟の壁面などに描いていた。これは日本だけでなく世界中でそうだった。基本的な工程は今も変わってないのがすごい。天然のものを用いて絵具を作り、それを何で溶くかで種類が変わる。油なら油絵具、アラビアゴムなら水彩絵具、というように。

そんな岩絵具を地元の石で作ってみる、という魅力的な講座が地元の美術館で行われたので、参加してみた。

前半は、天然顔料の専門家の先生のミニ講義。世界中から収集した石や岩で作られた絵具が塗られたサンプルを拝見する。

後半は、大磯海岸に落ちている小石をいくつか使って、絵具を作ってみよう、という内容。

このように、別に大磯でなくとも、どこにでもありそうな小石群。講師によると、大磯海岸には箱根から流れ着いた火山岩などが豊富にあるという。まさに地球の色。この小石の中から、出来上がりの色を想像して石を選んでみる。私はまず、茶色の石と象牙色の石を選んでみた。

小石を2つ3つ、このネジの中に入れて、ギコギコとネジを回すと、中である程度粉砕される。しかし、まだ粗い。

その後、タイルの上でガリガリ擦って細かくする。おお、まさにアースカラーの岩絵具が出来上がった!

同じやり方で何色か絵具を制作。石の見た目の色と実際に粉砕してからの色は多少違う。今で言う「くすみカラー」だ。

講座の最後は、膠で絵具を溶き、ハガキサイズの紙に簡単な絵を描いてみた。細かくしたと思ったが、やはり粒子が粗い。しかし、地元の石で描いた絵というのは、ちょっと嬉しい。前回はパネルを自作してみたが、今後は絵具も一部自作?という可能性も感じられた。いや、手作業でやるには膨大な時間と量が必要だから、必要に迫られたら、だろうけど。

この応用編として、旅先や好きな場所で石を拾い、それを絵具にして作品に使うというのは、素敵なアイデアだと思う。自分の記憶を絵の中に物質として残しておけるのは、ロマンティックだ。

上記は参考資料の展示物だが、大磯海岸だけでもこれだけの色が作れるらしい。

古の絵師の作業を追体験したようで、とても良質で興味深いワークショップだった。子供向けでも楽しいと思う。美術館はこういうワークショップをどんどん取り入れて欲しい。

「地元の絵具を作る」に2件のコメントがあります
  1. これも、すごい!
    創作は、元や始まりをたどらないと、わからないところがあるのでしょうね。こうやって作った絵の具が、何百年も何千年ももっているというのが、驚異です。先人に敬意を払います。
    描かれたお顔のモデルはどなたでしょうか。

    1. とさまさま
      おはようございます。本当に先人たちの知恵はすごいと思いますし、それが伝統として残っているのもすごいですよね。
      顔のモデルは特に誰というわけではなく、落書き程度に描いてみました。
      日本画って1枚描き上げるのにものすごい時間がかかるので、なかなか作品数が伸びず・・ある程度作品が増えたら
      並べようかと思っています!

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