お気に入りの橋はありますか?

橋・・・あまりにも日常に当然のように、そこにある構築物。一方、世界を見渡せば歴史ある美しい橋がいくらでもある。これまで訪れた各国の街にも、素晴らしい橋がいくつもあった。多くの古い都市は川があるからこそ発展してきた経緯があるので、橋は多い。パリで言えばアレクサンドル三世橋、アルマ橋、ポンデザール、ポンヌフ、ルイフィリップ橋などなど、好きな橋がたくさんある。渡っても、眺めても、素敵なのだ。アメリカでもブルックリン橋を始め、郊外からマンハッタンへ渡る時に見えるあの風景は、本物を目にするとやはり感動する。

京都ではいつも三条近くに宿を取るので、三条大橋に思い入れがある。京都に来たなあ、と実感する場所でもある。若い頃に住んでいた東京都江東区は橋の町だった。江戸時代からの水路が現在でも使われており、水門もあった。都心部からは清洲橋を渡って帰ったっけ。江戸時代の江戸の橋巡りも楽しいと思う。広重の江戸百景を片手に当時を偲ぶというのは、死ぬまでに一度はやりたいアクティヴィティだ。

横浜ベイブリッジや鶴見つばさ橋、レインボーブリッジなどはあまり心惹かれない。なんというか、首都高全体がもはや高い橋のようなものなので、橋を渡っている実感がない。眺めるにしても、造形的に惹かれるものがない。

さて、私が世界一好きな橋は、意外なことに地元にある。
1週間に少なくとも10回は通過する「湘南大橋」。
茅ヶ崎市と平塚市の市境にある、相模川にかかる橋だ。片側二車線プラス歩道がある。茅ヶ崎側は新湘南バイパスの茅ヶ崎海岸IC入り口にもなっている。ここから圏央道経由であちこち足を延ばせる。

残念ながら画像はない。なぜなら走行中に撮れないから。
日が暮れてから走行すると、シンプルで直線的な灯りが整列して出迎えてくれる。この乾いた感じがたまらなくいい。ジョン・コルトレーンの音が似合う風景だといつも思う。走行途中にチラっと内陸側を見る。もしも東海道線が並走していたら、何となくいいことがありそうな気がして。

さらに、大橋の北側を走る国道1号線やJR東海道線に乗っている時にこの橋を眺めると、人間の造った物質と自然の調和が、時にとんでもない美しさを生み出すことを実感する。

昔から、川を渡る電車やクルマを眺めるのが好きだった。実際に走行するよりも、眺めるほうが好きなんだと思う。普段自分が走行している時に感じる体感速度と、遠くから眺めるクルマの動きがまったく違って、ゆっくりと流れて行く感じが詩的なのだ。

先日も東海道線の車窓から夜の湘南大橋を眺めて涙ぐんでしまった。濃紺の海と、ソリッドな白い灯り、粛々と動いていく柔らかいヘッドライトの光。圧倒的な美がそこにある。昼間であれば、そこに自分のルーテシアが走る姿を想像する。私のルーテシアは赤いから、無彩色の風景のアクセントになっているんだろうな、と。残念ながら同時に2か所には存在出来ないので、自分のクルマが橋を走行している姿にはお目にかかれない。

橋はそれだけで物語性を含んでいる構築物だが、車両や人がその上を渡って行くのを眺めているのは永遠に飽きない。世界中どこであっても。

しかし、どうしても苦手な橋もある。
それは「吊り橋」だ。出来ることなら一生渡りたくないと思っている。私を吊り橋に引きこまないでください。