「クルマで巡る美術館」ドライブの目的地に出来る美術館または類似施設へ実際にお出かけしてご紹介。第一回目は約1年のリニューアル工事を経てオープンした、MOA美術館(静岡県熱海市)です。
行くと決めたら渋滞は覚悟
お馴染みの観光地ゆえ、週末は周辺道路で大渋滞を引き起こします。オープンの9時半を目標に早めに出発がベター(多分きっとそれでも混雑しているとは思いますが)。ドライブ好きな人は早起きの方が多いでしょうから問題ないですね。
国道135号沿いに大きな看板が出ているので、曲がるところはわかりやすいです。片側は海なので迷いようもありません。信号のある交差点なので、慌てずに右左折出来ます。
山の上にある美術館なので、そこからは相当な上りになります。私のルーテシアだと2速でも危ういところがありました。路面も良くないですし、途中、「すれ違えるの!?」と焦ってしまう幅の細い道や、見通しの悪いきついカーブなどもあり、本当にこんなところに美術館が?と不安になります。私など1度、道を間違えました。前方車がいて他県ナンバーであったら、そのクルマについて行くことをオススメします。恐らく目的地は同じでしょうから。
いつまでこんな道が続くんだろ、と不安になり始める頃、突如整備された道路に変わります。ただ、カーブは続きますので、路面がきれいになったからと言って速度には要注意です。帰りも大変そうだなぁ、などと今は考えないようにしましょう。
駐車場は無料です。美術館を通り過ぎてすぐのところ、両側にありますので迷わずスムーズに駐車。
眺望も作品のよう
入り口は1箇所だけです。ここでチケットを購入。一般料金は1,600円、学割は1,000円になります。都内の平均がだいたい1,400円前後なので、少し高めですね。近くの箱根には驚愕の入場料2,800円という岡田美術館がありますから、それに比較すれば普通の金額だと思えます。国宝も所蔵していますし。
館内はルート案内がちょっとわかりづらいのが残念。3階から入るせいでしょうか。案内パンフレットをもらったほうが安心です。普段、海を見慣れていない方はその眺望にうっとりするかも。あれだけの坂を上ってきた甲斐があった!と思える空間が広がります。
こんにちは国宝
ここには、日本画を学ぶ者として避けては通れない作品が展示されています。
その前に・・・この美術館、ガラスがすごいです。低反射ガラスと言うのでしょうか、とにかくガラスが見えない!なので、遮るものが何もないような錯覚に陥ります。絵画などの2Dより、仏像などの3Dのほうがその凄さがよくわかりました。あまりにもガラスが見えないので、鼻の頭をぶつける人が多いのでしょうか、頻繁にガラスのお掃除をする職員の方の姿がありました。
尾形光琳と言えば風神雷神や燕子花屏風を思い浮かべる方も多いかと思います。こちらの「国宝 紅白梅図屏風」はこの美術館の目玉ですから当然独立展示で、たくさんの人だかり。屏風ですので、皆さん少し離れたところから鑑賞していらっしゃいます。フラッシュ無しであれば撮影も可。
私は絵具の剥げ落ち具合や筆使いが見たいがために遠慮なくガラスに近づきました。琳派と呼ばれるアーティストたちは、何と言っても構図。この屏風も中央の水流が一度見たら忘れられないインパクトを与えます。描かれたパターンも優雅かつお洒落。古臭さがまったくない作品です。それだけ洗練されている、ということでしょう。完成直後は当然もっと鮮やかだったのでしょうが、本物を間近で観ると何とも言えない味わい深さがありました。
作品の落款や署名を眺めるのも楽しみのひとつです。金箔の上に描くのは憧れです。今回この美術館の設計を担当したアーティストの杉本博司氏が、この屏風をもとに描いた夜ヴァージョン「月下紅白梅図」の展示もありました。その名の通り同じモチーフでもシックで幻想的な印象です。
風呂屋娘のリアル
私がどうしても観たかった作品が、もうひとつあります。「湯女図」と名付けられている一幅の掛け軸です。
はっきり言って高級感ゼロな風俗画。とは言っても重要文化財ですし、美術史の教科書にも載っていた作品です。
後の浮世絵に代表されるような風俗画の先駆けと言われていて、お風呂であれこれお世話をしてくれる女性たちが描かれています。幽霊みたいな装束の女性もいますね。浮世絵や肉筆の美人画を見慣れているせいか、どの女性も若干おブスに見えます。ボディラインなども野暮ったく、それがかえってリアル。彼女たちの話し声まで聞こえてきそうじゃありませんか。
作者は不詳。この作品がMOA美術館にあると知った時の衝撃たるや。やはり本物を目の前にすると「おお、これか!」と感嘆しますね。世界には「なんだ、こんなもんか」とガッカリするような作品もありますけれど、こちらはそんなことなかったです。私は浮世絵、特に遊女たちを描いたものが大好きなので、その先駆けと言われるこの「湯女図」をどうしても見たく、リニューアルオープンを心待ちにしていました。満足です。
他に目玉として国宝の壺(by 野々村仁清)なんかもありますが、焼き物は私の範囲外なので「ふーん、きれいだなー」で終了でした。すみません興味が偏っていて。
上った道は下ります
敷地内には海を眺めるカフェ「the café」、レストラン「オー・ミラドー」、蕎麦「そばの坊」、甘味処「花の茶屋」と、鑑賞の合間に一休みする場所も充実しています。クローズが早いので、営業時間は事前にチェックし、利用するなら計画的に。能楽堂や茶室もありました。
すべての展示をじっくり見てもそれほど疲れはしませんので、美しい景観と日本文化にどっぷり浸かりたい休日にはもってこいの施設。ただ、やはり可能なら平日に出かけたほうが快適なロケーション。館内も館外もアップダウンが激しいのでヒールは避けたほうが無難。
さて、上ってきた道は当然下るのですが、文字通り転がるように下りていきますので、速度にはじゅうぶん注意したいところ。対向車が来たら無理せずいったん止まったほうがいいですね。どうせ下界に降りればまた渋滞なのですから、山道も心の余裕とともに楽しむのが一番です。
気楽にふらりと出かけるような場所ではありませんが、展示作品や敷地内の雰囲気を考えると季節ごとに再訪するのも素敵だと思います。
ちなみにこの日、反対側の駐車場に赤いルーテシアが止まっているのが見えました!多分存じ上げない方だと思いますが、とても嬉しかったです。
MOA美術館