クルマで巡る「知恩院」

正確には、タクシーで巡った。京セラ美術館の前でタクシーに乗り、「近くてすいませんが知恩院へ行ってください。あの階段って上らないとダメなんですか?」と運転手さんに尋ねたところ、「大丈夫ですよ、上までクルマで行けます」とのことだった。本来ならあの階段を上って行きたいところだが、何せ脚の痛みを抱えているので迷わず楽をする。途中、ランボルギーニらしきエグいクルマが前に現れた。京都でも時折こういう高級車を見かける。坊さんか?

知恩院・・・これまた「憧れの寺」だ。浄土宗の総本山であり、私が大好きな仏画『早来迎』を持っている。徳川所縁の寺だが、徳川勢にとっては完全アウェイの京都で彼らが遺したものを巡るのも、また興味深いのではないか。前の週には二条城へ行ったが、あそこは私にとってのテーマパークだ。収蔵館がクローズしていたのが何より残念だったのだが・・・

タクシーを降りると、目の前にすでに御影堂(国宝)がずどーんと待ち構える。大きな寺に来たのは久々だったので、圧倒される。このオーラ・・・熱心な信者でなくとも思わずひれ伏してしまいそうになる。このオーラは数百年の重みだ。

そして、予想外の幸運。通常は非公開の重文、大方丈と小方丈の特別公開をしているらしい。方丈とはお部屋のことで、将軍訪問時には大名と会談したり、お泊りした部屋、だそうだ。ということは・・・?当然狩野派による障壁画が見られるに違いない!!と心臓がバクバクしてきた。二条城の収蔵館のリベンジなるか?

まずはご本尊様にお参りをする。御影堂に上がり、お線香の匂いの中、しばし座ってお経を聴く。実家は浄土宗なので、いずれ知恩院にお参りしたいと思っていた。でも、これまで京都へ来るのは通学が目的だったので、ホテルとキャンパスの往復だけで本当にどこにも行ってなかったのだ、と痛感した。授業が終わる頃には寺院も閉まっているし。ようやく来られた、と感動し思わず涙が。荘厳なお堂の中の空気はとても特別で、日本という国の伝統と美に改めて尊敬の念を抱く。板張りの廊下がひんやりして心地良い。アスファルトに慣れた足にとても優しい。

そして、特別公開中の方丈エリアへ。拝観料の800円など安いものである。

(撮影禁止なので写真はない。下記をご参照あれ)

[blogcard url=”方丈【建造物】 – 歴史と見どころ|浄土宗総本山 知恩院 (chion-in.or.jp)“]

二条城二の丸御殿と同じ、鴬張りの廊下だ。歩くたびにキュン、キュン、と音が鳴る。そして、目の前に次々に現れるお部屋たちは、私の期待通り、狩野尚信(探幽の弟)、信政(探幽の娘婿)中心の狩野派による障壁画で構成されていた。時がたち、輝きが褪せ、それでも鈍い光を放つ金箔地に、それぞれのお部屋で違うモチーフが描かれている。鶴などの動物、菊や松などの植物・・・私はここでもマスクの中でむせび泣いた。圧倒的本物を目の前にすると泣いてしまう性癖があるのだ。特に美術を本格的に学んでからは、作り手側にも気持ちを馳せるようになったので、余計に感情があふれる。

二条城二の丸御殿内部のように、複製画によるキラッキラの内装も、当時の状態を復元しているという意味ではとても好きなのだけれど、、、、およそ400年前の絵師たちが手掛けた「作品」の持つ凄まじくも美しいエネルギー、時を超えて私たちを揺さぶるこの仕事、素晴らし過ぎて息をするのも忘れる。筆の跡を眺めているだけで、「狩野一門の皆さん、ありがとう」と、なぜだか感謝の念すら湧き上がってくる。江戸時代万歳!!(前から思うのだが、NHKは大河ドラマで狩野派をやるべき。長谷川一門とのライバル争いや、京と江戸に分かれたあたりのことなど、ネタもたくさんあるだろうし)

個人的に嬉しかったのは、久隅守景の作品が見られたこと。この人は国宝にもなっている『納涼図屏風』が有名な方だけれども、

このゆるカワな画風からとても狩野派門下生のトップだったとは想像出来なかったのだが、今回、彼の障壁画をしかとこの目で見て、やはり狩野派だったんだと納得した次第。守景さんごめんね。

お部屋を巡った後は、お庭にも入れると言うので外へ。

出た!早来迎。ここはこの早来迎をモティーフにしてデザインされたエリアなのだとか。ありがたや。

お部屋の圧倒的美とパワーにへろへろになり、すでにお庭を楽しめる余力が残っていなかったが、京都の寺院は宗教施設、観光地としてのみならず、美術館としても素晴らしいところが多いと思う。私は仏教美術や建築は範囲外なのだが(仏像もガンダーラ系が好きだし)、それでもじゅうぶんに楽しめる。

仏像をはじめとする彫刻、仏画や障壁画などの絵画、そして建築、庭園、さらには寺院の歴史や伝説、、、日本美術全方位に死角なし!のお寺ってすごいと改めて感服した。特に京都はそんなお寺があちこちにあるので、特別公開時期を狙って巡るのも楽しいだろう。ただ、あまりにビジネスに傾いた寺もあるので(建仁寺の風神雷神ビジネスのように)、行ってみないとわからないけれど。

今回、東寺に行くことも予定にあったのだが、活動の場がすべて北側だったため、なかなか南側まで行くタイミングがなく、見送りになった。次回は帝釈天に会いに行きたい。友達の一人にそっくりなのだ。

ちなみに、私は夏の京都が一番好きだ。あの蒸し暑さを体感すると、「ああ、京都にいるんだ」と実感出来るから。桜はもともと花として好きじゃないし、紅葉も出かけて見たいと思うほどでもない。冬もいいけど寒いから、やっぱり夏!

学校は卒業してしまったが、年に1、2回くらいは、これからも京都へ行きたいと思う。