クルマで巡らないPIGMENT TOKYO

以前から、一度行ってみたかった画材屋さん、PIGMENT TOKYO
ただの画材屋さんではない。

りんかい線天王洲アイル駅B出口から徒歩1分。
周囲はモノクロームの味気ないオフィスビルが立ち並ぶエリア。
そんな中に・・・

 

ここは極楽浄土か。

天王洲アイル自体なかなか行く機会のないロケーション、そして今現在、私は課題レポート執筆に追われており、筆を持てない時間を過ごしている。せっかく行くなら画材をまとめ買いしたいしな、と考えており、行けるのはまだ先かなと思い込んでいたのだが。

ここでは気軽に参加出来る短時間のワークショップを開催しており、たまたま今週末に「絹本(けんぽん)」の講座を見つけた。絹本は日本画を学ぶ者ならいつかはトライしたい支持体だ。憧れとも言える。皆さんが美術館などで見る昔の掛け軸の多くは、絹本に描かれている。私も以前、見よう見まねで自分で絵絹を張って描いてみたことがあるが、上手くいくわけがない。そこで、今回のワークショップに参加してみることにした。

スクーリングが2日連続、16時間なので、最初は「2時間という短い時間でどこまで出来るんだろう」と半信半疑だったが、終わってみれば非常に濃い2時間で、「なるほど!そうだったのか!」と思うことがいくつもあった。

あらかじめ墨で染められた絹を使用。

絹本の最大のメリットは、裏からも描ける「裏彩色」

 

その後、表彩色。どこから描き始めたのかがあからさまにわかるのが初心者・・・

 

拡大図。薄い部分が裏彩色

 

こちらのワークショップ、スクーリングとは違い、手ぶらで行ける。準備も後片付けもしなくていい(そこか!?)。そして、自分では買えない高級な墨、立派な硯、上等な絵具(今回は胡粉)を使わせて頂ける。墨を摺るだけでその違いがわかる。墨と硯の相性がいいと、こんなにも気持ちいいものなのか。うっとり。程良いヴォリュームで流れるJAZZも心地良い。

内容は先生のお手本を参考にしながら絹に描いていく、というものだが、やはり実際に描く時間は短く、完成には程遠かった。しかし、持ち帰って自宅でも続きが出来る。後日、自分で描き足すためにモティーフはあえて端に描いた。学校では教えてもらっていない「たらしこみ技法」も基本のキを教えて頂き、今後に役立ちそうだ。

絹本はこのままでは作品にならない。木枠から外し、裏打ちという複雑な工程を経て、さらに表装されて飾られることになる。この半端ない手間のかかりようが、絹本に描く作家さんたちの少なさなのかもしれない。

ちなみに先生は年下だが、同じ大学の博士課程を修了されているので私の大先輩とも言える。先生の絹への情熱がとても感じられて、興奮した私の目も恐らくキラキラしていたに違いない。上村松園の美人画の「生え際」の話で盛り上がった。
(松園の人生そのものは大好きなのだが、彼女の作品はあまり好みではない。しかし観るたびに「髪の生え際すげー!」と思うのだ)

通常、日本画材専門のお店は入りにくい。
よく行く上野のお店も京都のお店も、「あれとあれを買うぞ」と予め心に決めていかないと買い物もしづらい。しかし、反面「気分だけはいっぱしの絵描き、ゲイジュツ家」という自己満も味わえる。PIGMENT TOKYOはその点、とても入りやすい。そして、岩絵具ならば「どの色の何番の絵具を選ぶか」という迷いを抱えたまま行っても、実物を自分の目で好きなだけ確認出来る。この、美し過ぎて目眩がするディスプレイによって。

こちらは水干絵具エリア

化粧品カウンターでアイシャドウが100色くらい並んでいるのを見ただけでドクドク血が騒ぐ私なので、この圧倒的色彩はまさに悶絶もの。

絵具だけではない。膠、箔、筆、刷毛、墨、硯、そして西洋の画材もある。つまり何でもある。スタッフの方々は皆とても丁寧で優しいし、外国人の来店も多い。

画歴4年目、無情にも筆の質はお値段に比例することだけはじゅうぶんに思い知った

日本画に特化したこんな魅力的なお店が存在するだけで感謝感激なのだが、まったくの初めての人でも気負わず参加出来るワークショップが充実しているのも素晴らしい。私のように「学校では教えてもらってないけど挑戦したい技法」がある場合や、もう一歩進んだ表現方法のヒントが欲しいとか、そんな時にも刺激と知識と体験を与えてもらえそうだ。何より、スクーリングには必ず出現するお節介おばちゃんやマシンガントークBBAがいないだけでも心穏やかに集中して楽しめる。

ほとんどが半日以下のワークショップなので、興味のある人は是非行ってみて欲しい。ああ、地元にもこんな場所があったらなぁ。過去には私の愛する化粧品ブランドshu uemuraのトップアーティストの講演会も開催されていたようで、好きなものと好きなものが繋がると「縁がある」と感じてしまう。この日はお会いしていないが、館長さんも同じ大学出身の方だ。

次回は、学校では一度やったきりで、再度挑戦したい「箔」のワークショップに参加したいと思っている。再来年取り組む予定の卒業制作で箔の表現を取り入れるプランがあるので、復習の意味も兼ねてやっておかなければ。直近で今月末にあるようだが、その日は奇跡的に当選した東京事変のライヴ・・・!次の機会に是非参加したい。