クルマで巡らない「やまと絵」展

2週間に一度、上野に通っている。大学でも指導して頂いた先生が講座を持っているので、そこでかれこれ2年ほど日本画の勉強を続けている。上野にはご存知の通りメジャーな文化施設が集合しており、1日いても飽きないが、人の多さもまたすごい。ゆえに、本当に見たいものがない限り、ぶらぶら歩かないことにしている。

今回は東京国立博物館で開催されている「やまと絵」展を見に出かけた。土日のみ日時指定の予約制だ。

お目当ては・・・・普段は京都の某お寺にいらっしゃる、憧れの「あの方」に会うためだ。

この展覧会、国宝重文クラスがザクザク登場して、良い意味でとても疲れる。四大絵巻や平家納経、狩野元信の屏風など美術の教科書でしか見たことない作品が次々と目の前に登場し、興奮冷めやらぬって感じ。絵巻については、私が学校で模写した『平治物語絵巻』の「六波羅行幸」の場面が展示されており、心の底から感動した。スリルある場面なのだが、本物は、馬の嘶きと甲冑のぶつかる音が聞こえてくるようだった。その躍動感たるや。とにかくカッコいい絵巻なのだ。

『百鬼夜行絵巻』や『鳥獣戯画』を見ると、日本人のDNAには大昔から恐らく「かわいいもの、愛らしいものが好き」という嗜好がインプットされているのではなかろうか、と思う。そして、現在のマンガもそうだが、モノクロの線の表現(白描という)に関しては、古来より日本人は素晴らしいセンスと技術を持っていると実感。このように日本芸術史の魅力を目の当たりにするといつも思うのが、今の政治家って日本の素晴らしさを謳うわりには伝統的な芸術に無知あるいは理解ない人が多いよね、ってこと。本来なら、日本の文化伝統の庇護者にならないといけないんじゃないの。予算削ってる場合じゃなくて。

さて、今回初めて見て、とっても気に入ったのがこちら、『公家列影図』

公家のおじさんたちをスケッチした「ポーズ集」みたいなものなのだが、これだけシンプルな表現で良くここまで人格の違いまで描き分けられるなあ、と感心しきり。何よりみんな可愛い。ずっと見ていられる。

時代を下って登場する狩野元信の『四季花鳥図屏風』、和漢ハイブリッドの作として有名ではあるが、まあとにかくスゴイ。インテリアとしての日本美術は豪華絢爛なものが多いけれど、何というかものすごいオーラが画面から漂ってくる。元信は工房を立ち上げて制作を完全ビジネス化した人という認識なのだが、弟子たちがあくせく働く姿が目に見えるようだ。権力を持った人物の住まいや仕事場に設置された屏風や障壁画のその派手さを私はとても好きだが、出来れば美術館でなく、あるべき場所で見たいのが本音。

とまあ、色々とお腹いっぱいな展覧会だったのだが、ついに憧れの人と対面を果たした。

近年、「伝」が冒頭についてしまったが、ある年代以上の日本人の多くが源頼朝と聞けば思い浮かぶこの絵。

京都の神護寺が年1回公開する時でないと拝見出来ないこのマスターピースに、ついに対面を果たした。

ああああ、カッコいい~!!髭に触りたい!

意外なのがサイズ。これまで図版でしか見たことがないので作品のサイズ感は実感出来なかったのだが、ほぼ等身大である。

日本の肖像画最高傑作と言われるが、私も異論はない。第一、見た目がかなり好みのタイプであることを差し引いても、素晴らしい絵だと思う。この気品、知性、清潔感、少しの冷徹さ、そして選ばれし者のオーラ・・・大きな一枚絹に丁寧に描かれた一人の男の肖像。長時間、見入ってしまった。黒衣にはちゃんと透かし模様のような文様が入っているのを見て、何と美しい絵なのだろうとしみじみ。

展示は「神護寺三像」として、他に『伝平重盛像』『伝藤原光能像』と一緒に三幅展示されているのだが、やはり一番人気は彼で、人が集中していた。今更「伝」と言われましても、私の中ではもう頼朝として完全に刷り込まれているので手遅れだ!

(別人かも、となった経緯はこちらのサイトがざっくり解説)

源頼朝の肖像画 : 「教科書で見た頼朝像は別人」説を追った

会場の缶バッヂのガチャで、ラインナップに頼朝がいたのでトライしたが、見事に外れた。展覧会グッズに頼朝関係はほとんど無く、妖怪や鳥獣戯画からのキャラものが圧倒的だった。しかし、家でも拝みたいのでポストカードはゲット。

小さなポストカードになってもこの存在感よ。

国宝や重文クラスの美術品を一堂に見られる機会はそうそうないので、こういった展覧会こそ足を運ぶべきだとつくづく思った。次はいつ見られるかわからないものもあるし。ただ、このような文化財クラスの展覧会は展示替えを頻繁に行うので、全部見たい人は期ごとに通う必要がある。私はこの伝頼朝像の公開に合わせて行ったが、例えば同じ絵巻でも展示する場面を変えたりしているので、自分の見たい作品がいつ公開されるかは事前に要チェック。12月3日まで。

疲れていたが、帰り道に東京都美術館で開催中の「創画展」で、先生の作品を拝見してから帰路についた。