クルマで巡らない『森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020ーさまよえるニッポンの私』

自画像が好きだ。

自分を描くことはもちろん、人が描いた自画像も好きだ。小学生から世界の巨匠まで、もれなく好きだ。多分、絵画ジャンルの中で何が一番好きか問われたら、間違いなく自画像だと答えると思う。さらに現在進行形で、課題である自画像を制作中だ。

今は自分が描く側にもなったので、画家の自画像に特別な興味がある。

こういった本はお宝なのだ。

さて、私の美術館徘徊も今日からリスタート。
親友と品川の原美術館へ。東京都へ足を踏み入れるのは3ヶ月ぶりくらいか。そのせいか、来た電車に乗ったら湘南新宿ラインだったという「湘南あるあるなミス」を犯し、大崎から歩いて行った。軽く山越え。

事前に予約が必要。そのおかげで人が少なく、堪能出来た。このシステムはいいと思うが、人生最悪の劣悪展覧会であった一昨年のフェルメール展も、日時指定予約チケットだったことを思い出した。

入り口で検温と消毒をしてから入館。学割で700円。

それはいいとして、原美術館は年内で閉館してしまう。建物の老朽化だというが、とても素敵な場所なので残念だ。

中庭のカフェからの眺め

平日に美術館に来るのは憧れだった。快適〜。

今回の森村泰昌氏の作品を生で観るのは初で、しかもセルフポートレートの作品を発表し続けていらっしゃるアーティストなので楽しみにしていた。コロナで行けないと諦めていたので、再開は非常に嬉しい。

アジア人としての、ニッポン人としての自分とは何者か。
西洋文化に対してどう振る舞うべきなのか。
男とは女とは。
芸術は滅びゆく一方なのか。

タイムリーなテーマで制作された作品と言葉は、胸に突き刺さった。特に映像作品の中で三島由紀夫に扮した彼が演説する内容には、ほとほと泣きそうになったくらいだ。日本文化の中心は空虚である・・・そうか、そうだったのか、と妙に納得した。そう言えば延期になっていたドキュメンタリー映画『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』も観に行かねば。

マネ『オランピア』を不法占拠したというこの2作品。

召使も森村さん自らが演じている。いや、演じているというより、なっている。私は1枚目の蝶々夫人ヴァージョンが好きだ。

元ネタの『オランピア』。パリのオルセー美術館で会える。

白い肌の主人公(娼婦)と、黒い肌の召使。私が昨年オルセーを訪れた時は、黒人が登場する作品を特別展としてやっており、このオランピアもそこに展示されていた。現在のアメリカなら燃やされそうだ。

シンディ・シャーマンも自らが変身してのセルフポートレートで有名な作家だ。彼女はアメリカ社会の中で消費される女性たち、例えば映画のヒロインなどに扮し、撮影している。セルフポートレートは作家のメッセージ性が強く、また強烈な作品が多い。絵もそうだ。画家が自画像を描く理由は様々だが、作品と鏡のように向き合って、彼らがこちらに投げかけてくるものは何か。それを探すのが楽しい。目が合ったまま逸せなくなる自画像もある。

自分とは何者か。という哲学の原点のような主題を表現に落とし込むという作業は楽しくもあり、憂鬱でもある。自分としての自分、他者としての自分もまた違うだろう。今後、自画像を描いていく上でのヒントをたくさん頂いた時間だった。

欲しかった本も購入。今の私には教科書でもある

 

変身部屋の再現

自分も含めて、やはり「人間」を描いていきたいと改めて決意させてくれた。

末端ながら芸術にかかわる者として、展示のポップさとは正反対に、様々な難題を突き付けられた展覧会だった。素晴らしい。