クルマで巡らない「甲斐荘楠音の全貌展」

以前から大好きな甲斐荘(庄) 楠音(かいのしょう ただおと)大先生。そう、先生と呼ばせて頂く。先生の大規模展が、先生の地元京都で開かれている。卒展のため京都滞在していたので、学校での作業が終わるとすぐさま京都国立近代美術館へ向かった。東京ステーションギャラリーに巡回するのでまた東京でも見てしまうだろう。

通学するのに何度となくバスで前を通った近代美術館。平安神宮の大鳥居の目の前にある。

このポスターだけでもインパクトやべぇ甲斐荘先生。隣のフィンランドが霞んで見える。

甲斐荘先生の日本画が大好きだ。同じ京都画壇でも、例えば上村松園の日本画が苦手な私にとって、先生の作品イコール京都画壇と言っても過言ではない。先生ご自身はそういった枠組からはあえて距離を置いていたようではあるが、私にとっては京都の日本画イコール甲斐荘楠音なのだった。

先生の作品からは、京都の匂いがする。それも、濃い匂いが。そして時にそれは、良い匂いではない。人間は、美しいものに対してだけ美意識を持つ生き物でもないのだ。先生が仰る通り「はだか」は「肌香」なのである。

先生の作品を初めて目にしたのは、岩井志麻子著『ぼってぇ、きょうてぇ』の装丁としてだった。この物語は和ホラーの金字塔だと今でも思っているが、物語の世界観と先生の作品『横櫛』が重なって、忘れられない作品となった。この『横櫛』は一昨年の「あやしい絵展」でも拝見しているが、今回もものすごいオーラを放っていた。

絹本に描かれた鮮やかな着物の色彩と、美しい日本髪の若い女性。うっすらと口元に微笑みをたたえて立つその姿・・・なぜこんなにもソワソワさせるのだろうか。この作品に限らず、先生が女性を描いた作品はどれもそうだ。吸い込まれそうなおしろいの匂いすら漂ってくる。そして、上品に微笑む口元に対して、目は笑っていないように見える。その不思議な魔力、魔力という言葉がぴったりなのだけど、すっかり毒にあてられて気持ち良くなった。

今回の卒業制作において私は群像画のスタイルを借りた自画像を制作したのだが、群像画の魅力を知った私は先生の『畜生塚』や『虹のかけ橋』に強く惹かれたし、先生のスケッチや写生、そして先生ご自身がモデルとなった多数のお写真を拝見し、その才能にひれ伏すばかりであった。物事の判断基準を「己の美意識」に設定してもいいんですよ、と言われているようだった。。。精進します。

映画で使用された美しい着物の衣装などの展示も圧巻だった。着物は守備範囲外なので、その美しさを堪能することしか出来なかったが、大好きな『雨月物語』の衣装も見られて満足。原作も素晴らしいが、映画のあの退廃的な色気がたまらない。モノクロなのにべっとりとした色を感じる映画だった。

今の言葉で表現すれば「マルチクリエイター」になるのかもしれないが、先生には「芸術家」という言葉が似合う。先生の徹底した美意識にすっかり毒された私は、また絵を描こうという気持ちになれた。

東京に見に行ける人は是非、先生の美しい毒気にやられて来てください。