盛者必衰の理・イン・ベルリン

実は昨年の夏に映画館で観ていたが、アマプラでも観られるようになったので再度鑑賞。

ケイト・ブランシェット『TAR』。

まずこのポスターがすでにカッコ良すぎ。

音楽映画かと思いきや、確かに音楽家の物語ではあるのだけど、音楽自体はそれほどクローズアップされてはいない。ひたすらに指揮者リディア・ターの成功と没落を追う。

まず圧倒的にケイトが男前過ぎて本当に素敵だ。劇中で運転するクルマはポルシェのEVのように見えたけれど、とにかく何から何までカッコいい。ありゃモテモテだろうよ、と鑑賞者に説得力を与える。そして本人もそれをわかっているので、好みの若い女性に出会うとあからさまな行動に出る。そういったことも彼女が墜ちていく要素ではあるのだけれど、とにかく画面映えするというか。

ニューヨーク生まれ。ベルリンフィル初の首席女性指揮者であり、あのバーンスタインの弟子という超エリート。ベルリンフィルのコンマスであるヴァイオリニストの女性と同棲しており、養女を育てている。という最高に今っぽい設定。その彼女がスキャンダルをきっかけに栄光のステージからあっという間に転がり墜ちる様を描く。ラストは賛否両論あるようだが、私は前向きな力強さを感じた。

ただ、迫力ある音楽シーンを聴けるんじゃないかと期待していた分、その点は残念だった。マーラーの5番の録音というタスクが出て来るので、マーラーを指揮するケイトの凛々しい姿を見られるかと思ったけれど、一瞬で終わってしまった。タイトル画像は今は亡き巨匠アバドのマーラー5番のアルバムジャケットだが、劇中でターがこれを真似て撮影をするシーンがある。そして、それは実際この映画のサウンドトラックのジャケットに使われている。

盛者必衰の物語は古今東西たくさんあるけれど、この映画はなかなかに渋い。所々に不穏で不気味な描写があり(夜中に作動しているメトロノームとか、ドアチャイムとか、おかしな隣人とか廃墟とか)、ターが少しずつ正気を失っていく様子が恐ろしい。。。サイコ・スリラーとまでは行かないので、怖いのが苦手な人でも大丈夫。まあ、でも私は好きです、この作品。圧倒的オーラを放つケイトを堪能するには最高な映画だし、権力を持った女性の話は好きだし、かと言って崇高な人格者でもないところがまた魅力的で。画面の色調も全体的にモノトーンに近い暗い色合いで、上品。

私は交響曲は範囲外なのでよくわからないのですがマーラーの5番ってそんなにアイコニックな作品なんですかね。第四楽章のアダージェットくらいしか知らないけれど、ピアノで言う所のラフマニノフ3番のような位置付けなんでしょうか・・・ああ、また『Shine』が見たくなってきた!