迷宮に入らず

先日友人とのLINEで、コロナ(疫病)、猛暑、豪雨、台風、地震と、時代が時代なら陰陽師が大忙しだね、なんて話していたのだけど、古の人々はこれが怨霊の仕業だと思って震え上がったというのがわかる気がする。人間はいつの時代も正体がわからないものに恐怖を抱くのだろう。正体がわかっても怖いものもたくさんあるけど。

さて、「工事が終わった」という噂の横浜駅に数ヶ月ぶりに降り立った。それでも相変わらずの魔窟の様相だ。人通りの多い中央通路を使わずに抜けようとするといつも迷って遠回りしたりする。苦手な駅だ。

私にはいくつかの「これがなかったら生きていけない」というモノがあるが、そのうちのひとつであるクレンジングオイルを買い求めるために久々に横浜そごうに足を踏み入れた。ここのシュウウエムラにそれはある。

このオイルは365日朝晩2回使うもので、泊まりの場合も必ず持って行く。ジムのマイロッカーにも小さいサイズが常備してある。面倒くさがりな私のスキンケアは、このオイルで落とし、北海道産ラベンダー蒸留水にグリセリンを混ぜた自作の化粧水をはたき、その後アルガンオイルを塗る、という超簡単な3ステップだけでここ数年オールシーズン過ごしている。もともとはアトピー肌で色々敏感で厄介なのだが、どんなに疲れていても、風呂に入る気力がなくても、このオイルで顔だけは洗ってからぶっ倒れるようにしている。私の肌と抜群に相性のいいオイルなのだ。ないと生きていけない。

久々にカウンターを訪れると、これまでのように客が勝手にテスターを触るのは禁止されており、欲しい商品があればBAさんに申し出て、出してもらう。そして、コロナ前はBAさんがタッチアップしてくれていたが、今は彼女らの助言のもと自分でやらなければならない、というスタイルになっていた。

彼女らはフェイスシールドにマスク、サージカル手袋装着という姿で、客に触れるのは一切禁止だそうだ。ただでさえ売り上げは落ちただろうに、仕方ないとは言え気の毒になってくる。長い付き合いのBAさんも数人いるので、本当はもっと貢献したいのだが何せ手持ちの化粧品が減らない。特に口紅などはすでに埃をかぶっている。なのでどうしても財布の紐は固くなるのだが、それでも気持ちのよい笑顔で対応してもらった。さすがプロ。

お目当てのオイルを無事に購入し、次に向かったのは駅反対側のヨドバシカメラだ。今気になっている商品があって、それを実際にこの目で見て触って来ようと思って出向いた。

その商品とはずばり「美顔器」という美容電化製品だ。
男性の電動シェーバーみたいな形をしており、毛穴の汚れをきれいにしてくれたり、保湿してくれたり、マッサージ効果でたるみをリフトアップしてくれたりという触れ込みだ。しかも、安くても3万円、高いものだと20万近くする。私はのけぞった。

コロコロローラーや、スパなどで受けるフェイシャルトリートメントの後に顔が引き締まったように見えるのは、水分が下に移動するからだと個人的には思っている。だって朝は顔がむくんでいるのに、午後にはすっきりしているのがその証拠ではないか。ということは、一時的に改善出来ても、根元を改善することはこのようなモノでは難しい、ということだ。

万が一、高いお金を出してこれらの器具を導入し、効果があったとしたら、そこで止まらずに「その先」を求めてしまいそうで危機感を持った。つまり最終的には何かを注入するとか、そういう方向へ行きそうな気がしたのだった。これは自分が思うアンチ・アンチエイジングに反している。その沼へは入りたくない。

そもそもなぜこんな器具に興味を持ったかと言えば、頬が間延びしてフェイスラインがぼやけているように感じてきたから。マスク生活が長引くにつれて、このままだるーんとした顔になったらイヤだと思ったからに他ならない。たまたま目にした美容雑誌で「へー、こんなツールがあるんだ」と感心し、どんなもんか見てみようと思い立った。浅はかと言えば浅はかだ。
幼少の頃に使っていたアトピー治療のステロイドの副作用で、顔の皮膚が薄い。悪い点は少しでも違和感があると顔に出るということ、良い点は透明感があることなのだが、高価な器具でやれ高周波だマイナスイオンだと与えてもそれが吉と出るかはわからない怖さもある。

ふと周囲を見回すと妙齢の女性たちが熱心に器具を眺めていたり、店員さんに説明を受けたりしている・・・私は恐ろしくなって足早にその売り場を去った。

運動して引き締めること以外に確実な方法はない、という結論を胸に。

高いエステや化粧品やこのような器具を無理してまで手に入れたいと思わないのは、何も「そんなの私には必要ないわ」と感じているわけではなく、ただ単に理想が低いだけ。深刻な肌トラブルがなく、自分が許容出来る綺麗さを出来るだけ保てればそれでいい。ただでさえ漫画を読むのに老眼鏡が必要になってきたくらいなのだから、老化劣化は生きている証だと思わなければならない。

ちなみに化粧することは絵を描くことにも役立っている。特に自画像を描く時は。骨格やパーツの大きさ、形、距離、光の当たる位置、陰影のつき方などなど、化粧の時に意識することばかりだから。だから楽しいのかもしれない。

ニーチェは言った。
「深淵をのぞいている時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」と。
美容電化売り場はまさにそれだった。もう近寄るまい。

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