クルマで巡る大谷資料館

クルマで巡る美術館第5回は、大谷資料館(栃木県宇都宮市)です。

人の手で造られたものに圧倒される

時々、日本なのに日本の空気じゃないような場所がありますね。いつか写真で見た見知らぬ街を思い出させるとか、訪れたことのある外国の街の空気に似ているとか。あるいは実際に行ったことがなくても想像で「きっとこんな風なんだろうな」と感じる場所があります。ここ、大谷資料館はそんな場所のひとつ。

大谷石(おおやいし)の旧採石場跡を一般に公開しています。美術館ではありませんが、トリップアドバイザーでも特殊美術館に分けられているのでこちらのカテゴリに。

初めて目にする光景に思わず声を上げてしまうことが、ごくたまにあります。それは、やはり何かに圧倒された時。
私のこれまでの経験で代表的なのは万里の長城とマンハッタン。前者は、見渡す限りずーっと連なっている長城のあのスケール感の凄さに。後者は、JFK空港からタクシーに乗り、途中でマンハッタンの夜景が見えてきた時の感動。そして、ここ大谷。すべてに共通しているのは、「人の手」で造られたものである、ということです。

肌で感じる本物感

近隣の交通量はすごく多いというわけではないのですが、不規則な曲がり方をする道が続きます。ゆっくりと走って行くと、不自然なシェイプをした山が目に入ってきます。もうそれだけで異世界へ来た感じを受けます。駐車場は近隣にいくつかあり、無料なのはさすが栃木。エントランスすぐの駐車場は観光バスなどの専用らしく、乗用車は少し離れたところに駐車します。そこから少し歩くのですが、それが逆にイイ!近づくにつれて温度が急に下がってくるのを感じることが出来るので、期待が高まります。

エントランス前の広場。この切断面がすでに異空間な感じ。

エントランスの手前にカフェ、ギフトショップ、お手洗いがあります。坑内に入るとお手洗いが無いようなので、要注意。

入口はちょっとした資料室のようになっています。入場料は大人800円。地下への入り口からひんやりした空気が流れてきます。10度以下に保たれているそうで、上着は必須。入口が狭いので混雑していますが、それもここまで。階段を降りて行くと、今までいた世界とはまったく違う世界が眼下に・・・
まず感じるのが「中世のお城の地下?」というイメージ。ちょっとだけおどろどろしくて、とてもロマンティックなあの感じです。階段を降り切ると目の前に広がる大空間に思わず感嘆の声が。こんな空気の場所は海外に行かなければ体験出来ないと思っていました。

世界のどこと言っても信じられそうな空間。エジプト?南米の秘境?中世ヨーロッパ?アジアの古代文明?

ここはテーマパークではなく、モノホンです。壁に手をやるとひんやりと冷たく湿気を帯び、上を見上げると真っ暗で天井がどこかもよくわかりません。照明演出が不思議な雰囲気を作り上げていて、もはや日本じゃないみたいです。壁というか石を見ると色々なラインが見えてきます。天然の石のシェイプではなく、人間の手が入ったものなんですね。そう、ここは天然の空間ではなく、人間が作業をした空間なのです。

人は多いですが何せ広い空間でほの暗いため気になりません。どこを撮っても絵になるのでカメラが手放せませんが、私のように写真素人だと美しく撮るのが難しいところ。それゆえ、画像は全面的に同行のお友達たちに頼ることに。石を切った跡が模様のように刻まれていて、ますます神秘的な効果を作っています。

 

ここは時代の、世界の、どこにでもなれる場所

まだ訪れたことのないピラミッドや始皇帝陵などのスケールの大きな世界のお墓の地下を想像してしまいました。さすがにここはお墓ではないので壁画などはありませんが、それでも自身の体で感じる温度や空気などは、間違いなく非日常感にあふれています。脳内トリップが容易に出来る楽しい場所でもあります。ですがもともとは作業場、困難な労働をされていらした方々が実在したのですね。この現実離れした空間で、何を思いながら日々労働していたのでしょう。

天気が良ければ自然光が射し込むところなどもあったようです。さぞかし美しい天然の照明なのでしょうね。

 

こういった場所は文章であれこれ伝えるよりも、実際に行って、見て、感じなければいけません。当然、数々の映画やドラマやPVに使用されているそうで、そういったファンの方々もいらっしゃるのではないでしょうか。私はそっち方面には疎いのですが、大好きな東京事変のPVもありました!

「喧嘩上等」。懐かしい・・・

コンサートなど開催した場合の音響は気になりますね。教会で聞く音が美しいように、こちらの空間も荘厳で神々しい音が鳴りそうな感じがします。そして舞踊なんかも素敵そうですね。石のステージもありましたし、バレエやオペラ、能なんかも嵌りそうです。

 

近隣には大谷石で掘られた平和観音像などもあります。積み重ねられた人の思いの残像や、空気、温度・・・・テーマパークなんてやっぱり本物には到底敵わない、ということですね。私自身もこういった場所が関東圏に存在するということを今回初めて知り、大変勉強にもなりました。

カフェ兼ギフトショップでは、メイドイン栃木の洒落た雑貨や益子焼の器なども売っています。ただしドリンクなどの注文と商品のレジが一緒なため、かなり待ちます。私は大谷石のアロマストーンを購入。柔らかそうなので精油の入りが良さそうだと思って。もちろん愛車用です。また、自販機の並ぶ洞窟の中の休憩エリアはひんやり涼しくて良い雰囲気。屋外なのに屋内。歩き疲れた足と酷使して疲れた目を休めるのには良いスペース。どの季節に行っても間違いなさそうな、「大人の遠足」にもってこいの資料館でした。