5am Friday morning Thursday night Far from sleep
I’m still up and driving Can’t go home obviouslyMe and A Gun Tori Amos 1992
トーリ・エイモス。
私がこの世で最も好きな女性シンガーの一人。もう20年以上好きです。近年はだいぶ穏やかな作風になりましたが、デビュー時は攻撃的な女性性をあらわにした歌を多く歌っていました。
昨年、瀬戸内寂聴原作の「花芯」という映画を観たのですが、この原作が出版された当時、彼女は「子宮作家」として誹謗中傷されました。一方、トーリ・エイモスは自ら「音楽は子宮から」と言ってます。前回書いたNirvana “Smells Like Teen Spirit”も、静かにどん底へ落ちていくようなカバーで歌っています。
美しいピアノの旋律と品のいい声から紡ぎ出される、どす黒い世界観。
「同僚のウエイトレスを殺してやりたい でも私は平和主義なの ビッチ」と歌うThe Waitress。
「あなたが私に求めるのはセックスだけ?」と問うLeather。
「7年生の時 私はビリーのあとを追っかけてた 彼は私をブスだと言ったけど」と歌うPrecious Things。彼女はピアノを弾きながら歌うミュージシャン。デビューアルバムであるLittle Earthquakesは私の人生において揺るぎないマスターピースのひとつ。
その中で、ドライブの歌があります。タイトルは Me and A Gun。私と銃。タイトルからして不穏なのですが、中身は不穏を通り越しています。こういった内容を歌い上げるのは非常に勇敢な女性だなという印象を当時受けました。アメリカの女性はすごいな、と。
未明、一人の女がドライブしています。私の脳裏に浮かぶイメージは白い2枚ドアのクルマ。コンパクトではなく、大味のアメ車です。最後のほうに「クラッシックなキャディラックじゃないけど」という歌詞がチラっとあるせいでしょうか。クルマは満タン、家には帰れない。クルマには、私と、ガンと、後ろに一人の男。なぜ後ろに男が?
トランクです。トランクに男が入っている。もちろん、死体となって。
歌詞を追って行くと、レイプを歌っているのだとわかります。ここで思い出すのが「テルマ&ルイーズ」。レイプしてきた男を撃ち殺すシーンがありました。トーリもインタヴューの中でこの映画について話していましたし、私もこの歌を最初に聞いた時はこの映画が浮かびました。自分を襲った男を銃で撃ち、その死体をトランクに乗せて、あてもなくクルマを走らせている・・・そんな荒涼とした情景が浮かぶ、重い重い歌です。歌詞付きの音源がありました。
https://youtu.be/2xpyMvYYGjY
彼女の女性的な強い攻撃性がどこから来るのか。恐らくそれは彼女自身の体験から来ていると感じます。厳格なクリスチャンの家庭に生まれ育ったことも影響しているようです。デビュー曲のタイトルはCrucifyですからね。男によって抑圧されることへの激しい抵抗と攻撃を感じる歌詞が多いです。脚を開いてピアノを弾き歌う彼女はとてつもなくセクシーですが、同時に凄みもあり、私の中の「どす黒いもの」も一緒に垂れ流してくれているような、そんな特異なシンガーなのです。
女はみんなニコニコしながら男を愛しているわけではないことが、彼女の作品たちからは伝わってきます。容赦ない。男を憎みながら甘える女もいれば、男を愛しながらも破壊したい願望を持った女も世の中には確実にいる。彼女の歌声を聴いていると、そんなことを考えさせられます。