三毒史雑感ー林檎強化週間ー

一人のアーティストが世に出た時からずっと熱量最大に好きなままでいられることは稀だ。活動時間が長くなればなるほど、作品の数が多ければ多いほど、駄作も増えてくるし、自分の気分や環境の問題もある。しかし、そういったことを乗り越えてずっと好きなままでいるアーティストというのもいて、私の場合は椎名林檎がそれである。

昨年デビュー20周年を迎え、21年目の最初の日にリリースされたアルバム「三毒史」。届いて以来どこでもずっと聴いている。このところ、滅多にテレビなど観ない私がマメに出演情報をチェックしている。まさに私にとっての林檎博が今!って感じだ。

2000年頃に撮影されたという若かりし日頃の姿も

しかし・・・最新の作品を繰り返し聴いた後にデビュー曲周辺(『幸福論』『歌舞伎町の女王』『正しい街』あたり)を改めて聴くと、泣けてくる。それは恐らく、彼女の歌の時代時代に、私もいちいち飛んでしまうからだろう。昨日から涙が止まらない。上の写真のような昔のシーンを見るだけで泣けてくるから困る。

さて最新アルバムは、本人自身が「カルキっぽい」とコメントしていたので、非常に期待していた。彼女のオリジナルアルバムの中で私の一番のお気に入りはやはり「加爾基 精液 栗ノ花」なのである。文楽人形を使ったプロモーションも、全編に漂う古いニッポンの色気も、光より影を描く世界観もとにかく好きだ。ゆえに5年前に出した「日出処」は嫌いじゃないけどイマイチだった。全体的に明る過ぎたし、私が彼女のキャリアの中で一番の駄作と考えている『NIPPON』が入っているしね。あの楽曲だけは未だに受け入れられない・・・まあ、それはそれ。

今回は、すでにMVも公開となっているオープニングトラック『鶏と蛇と豚』から、確かに「カルキ臭」を感じて耳を澄ましてしまう。とは言え、ザ・J-POPな曲も入っているし、ザ・事変な曲もある。BUCK-TICKの櫻井氏とのデュエットに至っては、兎にも角にも懐かしい感じがする。ほら、私の世代が中学生とか高校生の時に聞いていた日本のバンドサウンドっぽいというか、とにかく甘酸っぱい感じがするのだ。

それから歌詞を読んで「あーなるほど」となるのも毎度恒例。
例えばライヴでの披露はあったもののCD化されていなかった『マ・シェリ』、その名の通り「私のかわいい人」に向かって歌い上げるキュートな歌かと思いきや、歌詞を最後まで読み込むと鏡に映った自分自身に歌っていることがわかり、自虐的な痛さと少しの狂気が垣間見える歌であった。好きだ。

アルバムとしてはタイアップや先行配信で目新しさには欠けるのだが、20年来のファンである私が衝撃を受けたのは『TOKYO』(訳タイトル Off-Line)。

「人生は夢だらけ~♪じゃなかったのかよ!?」と突っ込みたくなるが、よくよく考えたら『どうせあたしの人生、語呂合わせなんだもん』(弁解ドビュッシー)とか『どうぞ殺って』(入水願い)とか歌ってたしな。それを考えると昔の彼女を彷彿とさせるし、最初の印象は『時が暴走する』を思い出したので、やはりこの闇へ向かう世界観は彼女の魅力のひとつだってことを再認識した次第。でなきゃ20年もファンでいられない。

昔の男・・・度々夢に現れるよね・・・色々上手くいってない時とか、特に。

また音楽が。このピアノトリオを書いたってのが。まあこれまでもバレエ音楽でピアノ五重奏を作曲したりもしているし、芝居や歌舞伎でも音楽をつけているし、彼女の音楽素養の幅の広さは今に始まったことじゃないんだけれども、カルキ以来どうもそれが潜んでいたような気がしたので素直に嬉しかった。個人的にも5拍子大好きだし。

そして、ラストナンバーの「あの世の門」。
ブルガリアンヴォイスのコーラスのせいか、始まりはジョスカン・デ・プレの宗教曲みたいだ。不協和音がいい。途中でピアソラが香るタンゴになり、最後はそれらがミックスされて椎名林檎のサウンドとなっている。このコーラスも彼女が書いたのかと思うと、本当にその圧倒的な才能に感嘆せずにはいられない。真の救いとは死なのか?という問いを投げかけながら幕を閉じつつ、リピート再生しているとすぐに『鶏と蛇と豚』の般若心経が聞こえてくるという。さらに進めると鼓動が停止してすぐに「この世は無情〜」というエレカシ宮本氏の声が聞こえてくるという・・・永遠にループ出来る仕様。

近年、仏教的世界観へのアプローチが増えているが、ちと早すぎないか、林檎よ。新宿系自作自演屋、M&LH(飯食ってラヴホテル)だった勇ましい貴女は何処へ?でも、ちゃんとそれらも包括してるところが椎名林檎が椎名林檎である所以だ。だから、私は今回のアルバムがとても好きだ。しばらくはこれしか聴きたくない。

『鶏と蛇と豚』に登場する「新宿の目」は是非拝みに行きたい。

4拍が8拍に変わるところがカッコ良くて好き。ちなみに三毒を表現する3人のキャラクターはすべて同じダンサー、Ayaさんの一人三役。しばらくそのお姿をステージでも拝見してなかったので、この度の復帰は嬉しい。名前が同じなので勝手に親近感。

昨年のさいたまでのライヴにて、「多くの方々に広く受け入れられようと思って曲を作って来ていないので、今、ここにいらしてる皆さんは私が選んだ方々でもあるのです」と話していた。うーん私の人間関係に対する信念と同じだ。それでもこれだけ色々な世代に売れてるんだからすごいと思うよ、林檎。

ちなみにそのライヴにて購入したTシャツ、今朝よくよく見たらモチーフがすでに「三毒」(鶏と蛇と豚)であった・・・

 

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