クルマで巡らない美術館第3回は、根津美術館(東京都港区)。
お高いお店とお高いクルマ
表参道駅A5出口を出るとすぐに「根津美術館 →」という看板がありますので、その通りに右方向へ直進。途中にモンクレールだのステラ・マッカートニーだのアニヤ・ハインドマーチだの、思わず「ちょっと見るだけ」と入ってしまいそうになるお店がいくつかあります。狭い道路ですが行き交うクルマは高級車多し。フェラーリを2回も見ました。ポルシェあたりはもう青山のプリウス状態。
途中、右手にFiGAROというカフェがあります。根津美術館やBLUENOTE TOKYOに来ると必ず寄ってしまう、こじんまりしているけどフランスっぽい雰囲気が心地良い正統派カフェ。窓際の席は行き交う人やクルマを眺められて飽きません。
「根津美術館前」という交差点にぶち当たりますので、信号を渡ればすぐに入り口があります。
根津とは実業家である根津嘉一郎さんのこと。以前、美術館のツイートで「根津美術館は文京区の根津ではなく、港区南青山にあります」というのがありました・・・
今回のお目当ては「国宝 燕子花図屏風 by 尾形光琳」です。熱海に続いてこちらも光琳。もちろん、教科書に載っています。
一緒に鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」も展示されていますが、こちらは昨年の鈴木其一展でお目にかかったばかり。入館料は1,300円です。学割だと1,000円。
この美術館は根津氏の元私邸ということでお庭がありまして、ちょっとした散策にはちょうどいいサイズ。都会にいるとは思えない空気が流れています。残念ながら名物の燕子花にはまだ少し早かったよう。茶室などもあります。
お庭をゆったり歩いてから館内へ。
館内はとてもコンパクトです。お目当ての屏風はすぐに登場。
撮影禁止なので、パンフレットから。
昨年、この国宝公開を見逃したので今年は早々と見てきました。MOA美術館でも思いましたが、やっぱり構図。構図は大事。この絶妙な配置、バランス。
そばに寄って単眼鏡で観察すると、花の部分の絵の具はものすごく厚みがありました。何度も何度も塗り重ねていて、この色を出しているんですね。日本画で使う岩絵具は一度塗っただけでは思った通りの色が出ません。自分のイメージ通りの発色を出すのには何度も色を重ねます。この作業中はいつまでたっても終わりが見えない時があり、「本当に完成するんだろうか」と不安になったりするんです。ただ、翌日になって完全に絵の具が乾いた状態で見た時に「お!いい色になってる!」と思うこともあるんですよね。手間と時間と気持ちの余裕が日本画には必要だということを、私も日々体感しています。
燕子花自体はシンプルな描写なのに、この配置でリピートさせることでスタイリッシュな仕上がりに。本当にセンス抜群な人だと思います。他にも、弟の乾山が焼き、光琳が絵付けをしたお皿などの展示もありました。
下の鈴木其一は、その光琳リスペクトだった酒井抱一(私がもっとも大好きな江戸絵師の1人です)の後継者と言われた人。朝顔の屏風がとても有名ですが、彼の作品は今でも色鮮やかなものが多いです。川に使われているのは群青。高価で質のいい画材を使っていたに違いありません。芸術家にはやっぱりパトロンが必要なのですね。こちらも近くで見ると、絵の具の粒子を確認することが出来ました。
と、派手な作品もいいのですが、私が今回嬉しかったのは、やはり大好きな江戸絵師である広重の肉筆(浮世絵ではなく筆を使って描いた絵のこと)美人画を見られたことです。広重と言えば浮世絵の東海道五十三次や名所江戸百景が代表作。特に江戸百景は私も大好物です。浮世絵師も当然、自身で絵を描いていたわけで、彼らの肉筆画は別の一面を垣間見るような気持ちがして興味が尽きません。
2階の展示室では焼き物の展示をやっていましたが、例によって焼き物は興味を持てないので軽く鑑賞して終了です。
最後にミュージアムショップへ。
当たり前ですが、燕子花グッズが山のように!お決まりのクリアファイルに始まり、一筆箋やミニ屏風、ポチ袋etc。ショップ自体は小さいです。今回は特に欲しいものは見つかりませんでした。
都心でも有数のお洒落エリアにありながら、純粋な日本の美を楽しめる素敵な美術館です。それなりに混雑はしていますが、天井が高いせいか圧迫感がなく、気持ちよく鑑賞出来ました。表参道界隈の人の流れに疲れたら、是非こちらの庭園で一息ついてみてください。