クルマで巡らない弥生美術館

クルマで巡らない美術館第8回は弥生美術館(東京都文京区)です。同じ敷地内に竹久夢二美術館も併設。

 

 

情熱で人生を生きた100年前の女たち。

地下鉄千代田線「根津」駅から徒歩10分くらいでしょうか。都内の小さな私設美術館の多くは住宅街の中に佇んでいますが、今回の弥生美術館もそうでした。東大の裏のごく普通の生活道路にあります。

このレリーフで美術館があることがわかる

 

以前から気になっていた美術館でもあり、今回は「大正恋愛事件簿展」というまさに私好みの企画でしたので、テンション高めに出掛けてきました。マツオヒロミさんというアーティストのイラストと共に、実際に明治末期〜昭和初期にかけて起きた今で言う「炎上案件」とか「ゲス不倫」とかが紹介されています。

カフェもあります

 

入館料は大人900円。入ってすぐの小さな受付でお支払い。そこにミュージアムショップがありますが、見たいのを我慢して展示室へ。

いきなり平塚らいてう先生コーナー。「若い燕」という言葉をご存知ですか?この言葉の発端となった方です。私が日本人女性で一番好きなのが伊藤野枝なんですが、一時期彼女のボスでもありました。らいてう先生は和製ジョルジュ・サンドとも言えるのではないでしょうか。年下の芸術家がお好きなようです。やはり見るからに美しくて意志の強い眼差しをしていらっしゃいます。彼女を筆頭に与謝野晶子、松井須磨子、田村俊子、お葉、島崎こま子などなど、当時の文壇や芸術界を賑わせていた男たちとの不倫やら駆け落ちやら事実婚やら心中やらバイセクシュアルやら、もう濃い濃い濃い!!いいぞ日本女!

いい女といい男

日本の元祖肉食系女子と言えば北条政子だという噂ですが、今回登場する女たちもガッツリです。改めて彼女たちの遺された写真や作品、そしてお相手の殿方たちの写真などを見て感じたことは「いい女といい男」だということ。殿方も本当に魅力的な方ばかり。美しく志の高い女と、イケメンで知性と感性が豊かな男。最強です。そんな彼らが作り出すドラマは周囲の人間を傷つけ、迷惑をかけ、振り回し、時には海外にまで飛びます。相手に、そして自分にもパートナーがいようが子供がいようが関係ない。その情熱と潔さは、現在の日本女性にはもう実行出来る元気がないかもしれません。それでも自分の情熱を貫ける女がいたら、私はそういう女が好きです。

今では結婚と言えばお互い好きになった上でするものですが、この時代は恋愛を経ての結婚を「野合」と言ったそうです。すごいですね、この字!ですが、この企画展に出てくる女性たちは結婚をあえて拒否しているか、もともと相手に妻子がいるというケースが多い。自分が人妻だったというケースもあります。もちろん当時も国民は総バッシング。でも彼女たちは世間に怯まないんですね。当時は不倫なんていう言葉ではなく「姦通罪」ですからね。しかも基本的に女のほうに非があるということ前提ですし。そんな時代の中、ガツガツ行って己を貫き通した彼女らの情熱に感嘆します。

ですが一番感銘を受けたのは、有島武郎の「私の妻を迎えぬ理由」という手記です。
一度は結婚し、妻に先立たれ、シングルファーザーとなった彼は当時ものすごくモテたそうですが誰とも再婚することなく、最後は人妻で記者の波多野秋子と心中します。誰かを深く愛するようになったら結婚なんかしない、なぜならお互いの自由が妨げられて愛が永続しなくなるから、と書いています。家庭の奴隷になるようなことはない、と。自由を束縛されると生きている気がしないというのは、非婚主義な私はとても共感出来ました。だからと言って心中しなくても、とかは思いましたけどね。

その作品までもが女を虜に

同じ敷地内には、竹久夢二美術館もあります。

美術館同士は繋がっています

 

これまで、夢二の作品はちょっとメランコリックで甘すぎるような気がして敬遠していたのですが、改めて彼の作品を観ると意外にも引き込まれました。どんだけの女と付き合ったんだよ!と突っ込まずにはいられないほど多彩なモデルたち。まぁ、モテまくってたんでしょうねぇ。女同士の壮絶なバトルもあったんだろうなぁ、とか色々とゴシップが思い浮かびます。美人画はもちろんのこと、植物や着物の柄などにも洗練されたセンスを感じました。好きな男にこんな風に自分の絵を描いてもらったら嬉しいだろうな、という作品ばかり。

不忍池と言えばロータス

 

帰り道は不忍池のほとりを歩いて上野駅まで。緑があるとほっとします。スワンボートを楽しんでいる人がたくさん。おじいさんたちはベンチで将棋をさしていたり、外国人が自転車で颯爽と走っていたり。木々の向こうにはスカイツリーが見え、平和な江戸の夕方です。

 

また本を買ってしまった

 

なんと!「はいからさんが通る展」ですって!?絶対に行かなければ。私は少尉が嫌いで編集長が好きだったのに・・・

右上の橘小夢は最近気になっている画家です、と言っても明治25年生の方ですから現在はもういらっしゃいません。私が将来的に表現したいと思う世界にとても近いような気がするからです。この本の表紙もインパクトありますよね。発禁も受けてます。ミュージアムショップは夢二グッズを中心にけっこう充実の品揃え。女性向けであることは間違いありません。この日もたくさんの「お一人さま女性」が鑑賞していました。

弥生美術館、これからも要チェックです。

弥生美術館
http://www.yayoi-yumeji-museum.jp