注:この記事は性的表現を含みます。
クルマで巡らない美術館第9回は、東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区)です。
久々に新宿駅で迷う
初台駅は新宿駅からわずか1駅。京王線だということまでは把握していましたが、いざ新宿駅の京王線入り口に行ってみると、各駅停車は初台には停まらないらしい・・・なぜ?どうして?じゃあ何に乗ればいいの?という混乱が私を襲います。どうやら「京王新線」という別の列車があるらしく、乗り場もまた別らしいことがわかり。いったん普通の京王線の中へ入ってしまった私は改札を出ようとしましたが、駅員さんに聞くと「3番ホームからも行けますよ」とのこと。
京王新線、という案内の下に小さく「東京オペラシティ」と書いてありますが、とってもわかりづらい。最近は私鉄と地下鉄が合体しているので、ますますわかりづらくなっていますね都内は。ただでさえ広い駅の構内は苦手だと言うのに。
恐る恐る来た電車に乗ると、すぐに初台に着。そこからは案内通りに行けば直通でオペラシティに到着出来ました。
「画像」ではなく「写真」を見る
今日はこちらのアートギャラリーで待ちに待ったアラーキーこと荒木経惟氏の個展です。
私が写真好きになったキッカケ、それはアラーキー。ついついアラーキーなんて気安く呼んでしまいますが、日本を代表する大先生ですよね。18歳くらいの時からファンです。当時は写真集は高くて買えなくて、アルバイトしていた図書館に入庫をリクエストして取り寄せてもらったこともありました。
今回は撮影OKな展示でしたので、少しですがご紹介しつつ・・・
今年はアラーキーも77歳(!)です。いわく「ゴールテープが見えても、絶対に切っちゃダメなんだよな。テープを飛び越えないと」(美術手帖8月号インタビューより)。
入ってすぐに展開されるのが「大光画」と題された展示。
昔ながらの、という言い方は語弊がありますが、デジタルではないモノクロの質感たっぷりの、どこか懐かしい感じのするエロです。撮られている女たちは年齢も顔も体型もさまざまな素人さん。アラーキーのすごいところは、こういった一般女性でさえも一瞬のエロを切り取れるところ。というか、もともと女の中にあるエロを引き出せる、と言ったほうがいいのだろうか。美しいグラビアヌードを見慣れた人々には強烈かもしれませんが、あなたの近くの女たちもここにいる女たちと変わらない。私自身もです。
個人の嗜好もありますが、私がエロを感じるのはAVよりも日活ロマンポルノみたいなほうだし、最近は洒落たカフェよりいわゆる「純喫茶」と呼びたくなるような昔ながらの喫茶店が好きですし、好みが過去へと回帰しているみたいです。とは言ってもまだ自分が生まれてなかった頃のカルチャーだったりしますから、一種の憧れもあるのでしょう。
すっかり定番になったお花たちですが今回は100枚のモノクローム。無彩色なのに生々しい。毒々しい。でも私自身はこれが花の本質だと思うんです。「きれいだな」と愛でるだけでは終わらない何かを持つ植物。
空ばかりの100枚のモノクロームも反対側に展示してありました。どうしても「死生観」という言葉が浮かんできます。なぜ空を見ると「死」というイメージが浮かんでくるのか。折しもずっと聴いてきたリンキンパークのヴォーカリスト、チェスターが自殺したニュースを聞いたばかりでしたし、年齢が近いこともあって死について色々思いを巡らせているタイミングでした。
私はアラーキーの撮る東京が好きです。この写真日記もいたって普通の風景が並んでいるのですけど、私たちも彼の目を通して見る東京の街を見ることが出来る。時々ギョッとするようなものが写っているのがまた楽しい。そして、日付が入った写真、というのも懐かしいです。あとになってその日付が大きな意味を持ってきたりしますしね。展示後半に出てくる「切実」シリーズなどは、自分でもやってみたい実験です。1枚の写真をまっぷたつに切って、別の切った写真と合わせて1枚として見せるのですが・・・単純な手法なのに深い世界がそこに。
私の大好きな世界が登場。
ジャパニーズエロ真骨頂とも言える、着物と緊縛。モデルの女たちが婀娜っぽくて魅入ってしまいます。女の裸よりも、こういう世界観は観ているだけで熱くなってきてしまいます。エロ万歳!と叫びたくなりますね。
私はもともと遊女の浮世絵から日本美術の世界に興味を持ったこともあり、いつか自分でも描いてみたいと思っていました。ですが、やっぱり女は男が描いたほうがいいのではないかと最近考えるようになったんですね。逆に男は女が描いたらいいんじゃないか。自分も女だからわかる、投影出来ることもたくさんありますが、女というフィルターを通して捉えた男とはどういうものなのか表現することに興味が出てきたような気がします。
多くの女は、不思議と相手も女だと安心する傾向があるんだと思います。だから女性専用車両だとか、女医だとか、女の先生だとか、「同じ女だ」と聞くだけで安心しちゃったりするんですよね。ですが私は相手が男のほうが安心します。女は厄介で面倒で底意地悪くて信用出来ないから。だから、これらの作品群も「やっぱり男あっての女」を感じます。凹凸の粋、とでも言いましょうか。いいですね、とっても。魅力的な作品でした。
アラーキーが若い頃に作ったスクラップブックの写真は、「写真家の写真」。八百屋のおっちゃんの表情を撮ったものですが、ロバート・キャパが撮った休憩中の兵士の写真を思い出したりしました。
「デジタルで撮るのは写真じゃなくて画像」とアラーキー。
この展覧会を見るとその意味がとてもよくわかります。撮る側が、ファインダーを通して何を見ているのか。何を見つめているのか。そういうことがわかるとその写真は自分にとって意味のある1枚になります。彼の作品にはそういうものがとても多くて、毎回展覧会は心身ともに疲労するんですけど、アラーキー自身がまだまだ旺盛なので私もやらねば笑。
ミュージアムショップは充実の品揃え。
写真集にもなる「図録」と、遊郭コーナーにあった昭和のエロ本の手書き文字ステッカー(笑)を購入してきました。可笑しいですね。明るい日本のエロが好きです。
この展示は9月3日まで。
すべての写真好きな方にお薦め。