クルマで巡る川越市立美術館

クルマで巡る美術館第9回は、川越市立美術館(埼玉県川越市)です。

 

 

湘南から圏央道と関越道で約1時間15分。近くなったものです。鶴ヶ島JCTから関越道に入ってわりとすぐでした。インターを降りてからは駅周辺がちょっとごちゃごちゃしますが、決して行きにくいところではなくスムーズに到着。初めての川越です。今回はこちらの市立美術館である川越市立美術館へ行ってきました。

川越と言えば「小江戸」と呼ばれており、蔵造りの町並みが楽しめるちょっとした観光地。距離以上に旅した気がするのは、これらの町並みの印象が大きいからです。食べ物屋さんが多いですが、洒落たカフェなどもあり、散策が楽しいエリアでした。

 

 

火の見櫓かと思いきや、時の鐘がどーんと。これだけでも江戸っぽいですよね。どの通りも観光客で混雑。メイン通りは歩行者天国にしちゃったほうがいいのでは、とも思いました。どこを歩いていても食べ物やスイーツの香りが充満。コロッケ、お芋関連のスイーツから駄菓子専門店まで多彩です。家族連れだと楽しいかもしれませんね。飴の実演なんかもやっていたり。

その中心部から歩いて10分くらいのところに、美しい白壁の建物が突如現れます。

 

風景に溶け込んでいます

 

こちらは川越市立博物館。この左隣に、今回のお目当である美術館が併設されています。駐車場は通りを挟んでお向かいにあり、無料。おじさんから手渡される券を美術館受付で渡してスタンプしてもらうだけ。ちなみにとってもフレンドリーなおじさんでした。でも、花粉がすごくて、私の赤い愛車が黄色く・・・川越城本丸御殿跡も敷地内にあります。

市立美術館なので空間自体にはあまり期待していなかったのですが、自然光を取り入れた解放感のある気持ちのいい館内。入場料は学割使って300円。激安です。1階は市民ギャラリーとなっており、今回のお目当ての特別展は地下の展示スペースへ。

 

 

さあ!ここからは語りますよ笑。

今回の目的は小村雪岱(こむらせったい1887-1940)の展覧会です。彼は今、私がもっともハマっている大好きな画家。模写しているほど好きなのです。なので、今回の展示は「これを見ずして死ねるか!!」くらいの勢いで。彼は川越の方なので、地元の美術館での大規模展示はさぞかし充実しているだろうと予想していましたが、予想以上の至福な時間を過ごすことが出来ました。作品に近づき過ぎて2度もお姉さんに注意されましたけど。

まず、私が彼の作品を知るきっかけになったのは、この絵です。

 

今回の図録より

 

右の、水面から女の足が出ている絵です。これは邦枝完二作「お伝地獄」という物語の挿絵として描かれたもの。犬神家を思い出したそこの貴方、私とお友達になれそうですね。高橋お伝という実在のビッチをモデルに描いた物語で、これは主人公お伝が口封じのためにお初という女を川に投げ込んだシーンだそうです・・・このファンタスティックな構図!膝と足首とつま先の絶妙な角度!行為の残酷さを黒白2色のコントラストのみでここまで表現出来るとは、と衝撃を受けました。

挿絵は印刷になるので黒と白(白い部分は紙面なので実質黒1色)で表されます。線ひとつでガラリと表現が変わってしまう世界だと思うのですが、はっきり言って完璧です。物語の文字がなくても、登場人物の内面までが伝わってくるものばかりでした。そして、大好きなこの装幀。

 

 

なんて贅沢な本!表紙裏表紙です。シンプル過ぎるくらいの絵ですが、着衣とヌードと言えばゴヤの「マハ」シリーズより、ずっと深い濃厚なエロティシズムを私はこの絵に感じてしまうのです。彼の絵には、竹久夢二とは対照的に特定のモデルさんはいなかったようですが、この危うい感じの少女の画風どこかで見た気がするなぁと思っていました。その答えがついに判明。それは鈴木春信。数多の浮世絵師の中でもロリコン寄りであることは間違いない春信の美人画。確かに影響を受けているようで、春信の本を雪岱も所蔵していたようですから、模写もしていたのでしょう。今回、春信の作品も同時に観ることが出来ました。私は浮世絵ではあまり春信は好きじゃないんですけどね、雪岱の描く女にはとても惹かれるのです。また、雪岱は女性を描く時にいつも思い浮かぶのは、若かりし日頃の母の表情だと述べてもいます。やはり男性アーティストにとって若い頃の美しい母ってのはいつの世もインスピレーションの源なのでしょうか。

彼は泉鏡花の本の装幀でも素晴らしい仕事をしています。私は雪岱の絵の世界観をもっと感じたいためだけに、今さら泉鏡花を読んでいます。よく、大学の先生が「いいですか!構図は大事!!」と口を酸っぱくして指導されてらっしゃいますけど、それを痛感しますね。

 

 

上の絵は特に大好きで、この2枚だけであらゆる想像力を刺激されて飽きることがありません。下段の絵も、襖の間から見える奥の部屋では何が・・・胸がざわつきます。直線的なモチーフが多いせいかドライな印象を画面から受けるのですが、女性の姿だけがゆるやかな曲線美を醸し出しており、ゆえに色々な物語をそこに想像してしまうのです。

もっとたくさんご紹介したいのですが、キリがないので後はGoogleさんで画像検索してみてください。

もともとは日本画を学んだ雪岱ですが、こうしてみると今で言うデザイナー兼イラストレーター的な仕事のほうが多かったようです。肉筆の美人画は絹本に描かれ、手頃なサイズの掛け軸に表装されており、とてもとても参考になりました。必要最低限の色と繊細な線、大胆で時にはシュールな構図の中にドラマティックでスキャンダラスな要素を盛り込み、さらに観る側の想像力を掻き立て心をざわつかせる。こんな画家を他に知りません。

今回、彼の仕事すなわち作品を間近で見られて心の底から幸せでした。例え係員に注意されても。しかも展示空間はほどよい広さで照明も暗すぎず明るすぎず、非常に快適。やっぱり美術館とは箱の大きさではないんですよね。図書コーナーも8畳ほどのスペースに美術関連の著作や画集がわかりやすくコンパクトに陳列されており、素晴らしかったです。私は「まんが日本美術史」を借りて行きたかった・・・

都内の美術館のような「人の頭しか見えない」なんていう状態とは無縁ですし、都心から離れているがゆえに「本当に観たい人しか来ない」のだと思います。これからも地方美術館でこのような内容の濃い展示が開催される場合は出来るだけ行きたいと思いました。

ちなみに、この「クルマで巡る美術館」カテゴリを最初に作った時に念頭にあったのは、箱根の岡田美術館でした。最近は興味を惹かれる展示をやっていないので行きそびれていますが、そのうち真打登場!となるやもしれません。

 

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雪岱、まだまだ私も影響を受け続けそうです。

 

川越市立美術館

 

 

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