クルマで巡らない国立劇場 その2

クルマで巡らない美術館第16回は、国立劇場(小劇場、東京都千代田区)。2回目の登場です。

 

今回は地下鉄半蔵門線の半蔵門駅から徒歩で。
最寄りの駅が微妙に同じくらい離れていていつもどのルートか悩ましいところなのですが、小田急の中央林間駅から東急田園都市線に乗り換えれば、その電車が半蔵門線に自動的に変わってくれるため、シンプルなこの方法で行くことにしました。

半蔵門駅からは5,6分というところ。人気のない永田町で降りるより、まだ喫茶店やらコンビニやら生活臭の漂うところを歩いたほうが精神衛生上いいというものです。看板があちこちに出ているので、迷わず到着しました。

今回も前回に続いて、文楽(人形浄瑠璃)を鑑賞です。
この日のチケットは実は取れなくて翌日分を押さえていたのですが(それも完売直前の隅っこの席)、なんとお友達からこの日のチケットがあるというお誘いを頂き、お友達御一家にくっついて鑑賞の運びとなりました。

義太夫&三味線の前!迫力あるサウンドを体感しました

 

演目は、ずっと観たかった「女殺油地獄」(おんなころしあぶらのじごく)。
どうです、この字面だけでものすごいインパクトと凄惨な印象を受けませんか?

あらすじは、簡単に言うと大坂の油屋のグレた次男坊が強盗殺人をするお話。店の主人である父親が亡くなり、母親が番頭さんとそのまま再婚、よって父親は養父になります。下に異父兄弟である病気がちの妹が一人。ここで養父が彼を虐めて・・・という展開ではなくむしろ逆で、養父は番頭から入り婿になって店を継いだことに引け目を感じており、常に次男坊に遠慮して甘やかしてきてしまいました。次男坊、与兵衛くんと言うのですが年齢は23くらい。あちこちに借金を作っていますが、その返済のために追い詰められて、顔見知りの同業者のおかみさん、お吉を手にかけて金を奪います。

という、今の世の中でもじゅうぶんありそうなお話。

与兵衛はいわゆるチンピラなんですけど、観ているほうも彼の家庭環境を理解するとちょっとかわいそうにはなってくるんですよね。本当はそんなに強くないのにイキがっている感じを受けるので。でもそれ以上に養父がいい人過ぎて・・・。成長してくるにつれて与兵衛が亡き主人に生き写しになっていく・・・と語るくだりは涙無しには見られません。このクズ息子に、実の親子ではないのにそれ以上の愛情を持っていたことがわかります。この養父を足蹴にする与兵衛は本当にクズの鏡みたいな男ですが、演じる人形はキリリとした二枚目です。まあ、だいたい主役の悪者は「色悪」が多いですよね。特に若い男だと。

この演目でメジャーな見所は、与兵衛が金をせびって断られた上に説教されたお吉を殺すシーンです。油まみれの店内で滑りながら追う与兵衛、逃げるお吉と壮絶な場面。是非、歌舞伎でも観てみたいなと思いました。最後の段で与兵衛は御用になりますが、あの段は蛇足かなぁ。「悪者は捕まった」というはっきりした最後があるよりも、お吉が息絶え、与兵衛が金を持って逃げるシーンで終わりのほうが、不穏なやり切れない後味を楽しめる気がしました。

今回で3回目の文楽鑑賞ですが、やはり生はいいなぁ。若い頃はこういった伝統文化には全然興味がなかったのですが。
文楽に限らず、私の母親が人形劇に従事していたり、叔母方に三味線の杵屋さんがいらしたり、絵描きだった祖父が旧歌舞伎座関連の仕事をしていたりとまったく縁のない世界ではなかったのに、もったいないことをしました。ですが能だけは苦手!!

私はまだ入門者なため、義太夫は字幕を読まないとなかなか理解出来ないのがつらいところですが、低音の迫力ある三味線と、時には涙を誘う義太夫節。そして人形なのに生身の人間に見えてくる不思議。日本が生んだ素晴らしい伝統文化だと毎回感動します。人形遣いの方々もキリリと素敵な方ばかりですしね。至福の時間でした。

以前にメルセデスベンツでは、大阪でこのようなコラボレーションをやってました。

ルノーもやっておくれよ!!ZENなんてグレードがあるんだから

現在、お友達に教えてもらった「ちかえもん」を観ています。一昨年にNHKで放送された時代劇なのですが、松尾スズキさん演じる近松門左衛門が今回の「女殺油地獄」の作者でもあります。一番有名なのは「曽根崎心中」でしょうか。このドラマ、もう毎回可笑しくって切なくって傑作。竹本義太夫&近松門左衛門と言えば私にとっては日本文化を学ぶ上で神レベルの人たちなんですけど、ドラマの中では2人ともうだつの上がらないおっさんで、どちらかと言うと情けな~いタイプ。当時の「商人のまち、大坂」の様子なども想像しやすくて、江戸とはまた一味違った雰囲気を満喫出来ます。安定の徳井優さんが好き!私の中では大阪弁と言えばあの方。

文楽は元々上方文化。江戸文化大好きな私が唯一例外的に好きなのが文楽です。国立文楽劇場は本場大阪にあります。こちらも一度は訪れてみたい!望むのは、もう少しテレビ放映などを増やして欲しいです。そうすれば今まで観る機会のなかった人も気軽に観られると思うので。

ちなみに椎名林檎の最新アルバムの表紙も人形です。

昔のアルバムのCMにも人形が登場していました

 

文楽も本来は庶民が観て楽しむもの。もう少し気負わず鑑賞出来る環境があればもっと楽しいのにな、と思います。