クルマで巡らない桂川連理柵

「かつらがわ れんりのしがらみ」と読む。五七調って声に出して読むと気持ちいい。

1年ぶりとなった文楽鑑賞のため国立劇場 小劇場へ。
この作品は私が長いこと観たかった演目のひとつで、今回ようやく鑑賞する機会を得た。

はっきり言って、この作品はおっさん好き(あるいはファザコン)の女と、少女好き(あるいはロリコン)の男のためにある。そういった嗜好がある人は感情移入しやすく、妄想力が爆発するだろう。お薦めだ。

物語はわかりやすい。平たく言えば「年の差不倫カップル心中事件」だ。38歳の長兵衛と14歳のお半。お半は14歳のくせにすでに小悪魔的要素を備え、長兵衛と関係を持つことに成功する。長兵衛はそれを後悔するも、家族にバレた上に、お半が妊娠(!)していることが発覚。他にも色々と生きるのが嫌になる事件が起こった末、道行へ、というお話。

お半の人形がまた可愛いんだわ。出番は少ないのだけども。

愛するおじさまの様子をコソっと覗き見る。かわいいなあ

仕草やら何やらが本当にあどけなくて。でも中身は一人前に女なのだ。いや、そこらへんのただの女よりも女だ。あんなのに迫られたら分別のある大の男でもコロリといっちゃうだろう。誘惑したのはお半というところが私はとても好きで、やはり昔からおっさん好きは一定数存在していたのだと思う。好きなおっさんと一緒に死ねて良かったね(とは言っても38歳ですからね、まだまだ若い)。遺書をわざと長兵衛の目につくところに置き、後を追いかけさせるというのもお半の作戦通りと私はよんだ。長兵衛を思い続ける心はきっとピュアネスなのだけど、積極的に誘ったりするのは天性のファムファタル要素が備わっていたのだろうか。とにかく魅力的な少女である。

伊勢参りの帰路、たまたま長兵衛と同じ宿に泊まることになったお半。
「丁稚が迫ってきて寝られないの。おじさま、お願いだからここで寝かせてください・・・」と泣きつかれたら(一応、長兵衛は一度は断るのだけど)、まあーー仕方ないですな。流されがちな優柔不断な男とも言えるけど。
自分のやったことがやったことだけに、長兵衛は俯き顔であることが多い。それがまた「お前さん、しっかりしなさいよ」と観ているこちらが発破をかけたくなる感じだ。でも、少女に振り回されたい願望を持つ男性には理解出来るのかもしれない。

ただ、最後にお半が長兵衛への恋心を切々と語るシーンがあり、「幼い頃からいつもおじさまのあとを追ってたの。いつかおじさまと夫婦になるって言うと周囲の者たちから色々なじられたりしたわ・・・もうこれは運命だと諦めて、おじさま、あたしと一緒に死んで!!」というところであたしも泣きましたわ。

一方で、長兵衛の妻のお絹さんも美しい女性だ。奥さんとしては完璧。頭がよく、常に夫の味方。決して長兵衛を責めない。それが逆に長兵衛の心の重荷となってしまうのだけど、現代でも夫が不倫や浮気をしたら決して責めずに「私はいつでもあなたの味方よ」という態度を取り続ければ、夫は勝手に発狂していくと思うのでそれが正しい復讐だよな、思ったり。立派な奥方でした。長兵衛はお半との情事はバレても、どうしてもお半が妊娠していることは奥さんに言えないのです・・・

にしても、毎回感じることだけど、最初に三味線の低音が鳴るとものすごい高揚感が襲ってくる。クライマックスは本数も増えて盛り上げてくるので、こちらも感情を我慢出来ない。歌舞伎好きの私の母は、拍子木の音を聞いただけで胸躍るそうだ。

国立劇場小劇場は席によっては字幕を見るのにかなり苦労をする。私は今回下手の前から3列くらいのひどい席だったため、人形はよく見えるけど全体と字幕を見るのが難しい上に、義太夫と三味線も遠い!!見えない!!仕方ないので手元の床本(語りがすべて載っている冊子)を見つつ舞台を見つつでちょっと気持ち悪くなってしまった。

文楽は、例えば能と違って庶民の間で発展してきたもの。だから、興味がある人は一度「生」で鑑賞してみて欲しい。敷居は決して高くない。歌舞伎よりもチケット安いし、字幕を見れば語りの内容も理解出来る。わりと若いお客さんも多い。本場は大阪の国立文楽劇場なので東京での公演数は少ないのが残念だけど。