クルマで巡る山本二三展

私はアニメーションに疎い。もちろん観るのはとても好きなのだが、制作過程に関しては知識もあまりない。通常、動いている人物などにどうしても目がいってしまう。だが、時々はっとするくらい美しい色の背景が現われたりして、それはすでに「絵」であり、それ単体は普段見ている「絵画」と変わらないのではないか、と思っていた。

それを確かめるのに良い機会がやってきた。

八王子にある東京富士美術館で「山本二三展」。

ここは以前、東山魁夷展で一度来たことがある。正直、周辺含めて苦手な雰囲気なのだが、たまにこうして興味をそそられる企画展をやったりするのだ。ミュージアムショップが味気ないのと、裏口のスフィンクスっぽいものが不気味である以外は比較的鑑賞しやすい空間だと思う。

今回は、美術館のやや近所の地域に住まうクルマ友達3人と一緒に出かけた。

到着してびっくり。駐車場待ちの列が出来ている。前の晩にタイミング良くラピュタが放映されたこと、それに絡んでTime Out Tokyoのツイッターにも案内が上がっていたし、夏休み最後の土曜日ということも重なったからだろうか、前回とはうって変わった賑わいを見せている。戦意喪失するほどの列ではなかったので、少し待って入場する。

お約束の学割で700円をお支払い(小中学生は無料だったのも混雑の理由か)。

長いエスカレーターで展示室へ。

ややっ、昨晩見たばかりのシーンが

アニメーション作品としては、知っている作品とそうでないものと半々くらいか。いや、知らない作品のほうが少し多かったかもしれない。しかし、それはあまり関係ない。むしろ知らないほうが素の状態で絵として堪能出来るとも言える。

私にとってジブリ作品で印象深いのは、やはり空、水、樹だ。
氏の描いた「動かない」それらの絵は、静謐でただただ深かったし、建物や室内などの絵からは温度や空気感まで感じられる。写実ほど細部を描きこんでいないのに、圧倒的説得力を持っている。そして、日本画の色で言えば「群緑」つまり平たく言えば青と緑の混ざった色(私がもっとも好きな日本の青系の色だ)が印象深い。美しい・・・一流だ。巨匠だ!!

巨匠と言えば、西洋の巨匠の作品でも、完成された本画より、スケッチやデッサン、草稿などのほうが興味をそそられる。これは絵を学び始めてからのことだが、どのようにしてああいった完成形になったのか、という軌跡を見られるし、画家の個性が本画よりもいっそう強調されている場合もあって面白いのだ。今回もそれがあてはまり、背景画を本画とすれば、イメージボードが当たり前だが非常に「生」で、下絵のお手本のようであった。本来なら私たちもこのくらいのレベルまで下絵を描かないといけないのだろうが・・・できましぇん。何でも描けるんだなあ、この方は。巨匠はたった1本の鉛筆の線からして違うのだ。

前日に放映されたラピュタ(初めて観た時はシータの年齢に近かった私も、今はドーラの年齢のほうが近くなってしまったな笑。あんなカッコいい婆さんには憧れるけれど)は雲の動きがとても印象的だったけれど、動いてなくてもじゅうぶんに「語る雲」であった。筆のタッチなのだろうか。雲って難しい。

空、水、樹以外でも例えば都会の夜景の描写や、光の差し込む部屋の様子など、人工物の明暗の色の変化も間近で鑑賞することが出来、勉強になった。セルが重なった作品も展示してある。

かと思えば、ほとんどモノトーンで描かれた原爆ドームの冬景色や、「火垂るの墓」の燃え上がる炎や、絵画としても思わず感情を揺さぶられるような作品も。

ジブリ以外では、私は細田守監督の「時をかける少女」が大好きなのではあるが、ヒロインが自転車で下る踏切への坂道や、彼女の住む和洋折衷の家など、映画の中で印象深い場面の作品が見られて大満足。同行した友達に「時をかける少女、泣かなかった?」と聞いたら「いや別に・・・」と。私は泣いたぞ!「俺、未来から来たんだ」って涙腺決壊しないか?
今ではタイムリープものの作品は多いけれど、大好きな人が実は未来からやって来ていて、しかも未来に戻る=もう会えない、記憶も残らない、なんて突然そんな状況になったら、と思うと切なくて泣けてくるのだ・・・(自称精神年齢16歳)。
なんてことを思いながら観ていた。

(余談だが来週授業で尾道に行く。尾道を舞台にした大林作品では時かけと「ふたり」が圧倒的に好きだ)

大きなお仕事以外にも、氏が描いた教科書の挿絵などもとても良かった。「くじらぐも」なんて文字を見たら、遥か彼方の忘れられていた記憶を呼び覚まされてしまったし。他にも絵本の挿絵や、街のイメージアップポスターの作品、家族の肖像画etc。盛りだくさんであった。氏の故郷である五島列島は、今行きたい国内の旅先の筆頭に挙げられる。島の小さな天主堂、日本女性初のイコン画家である山本りんの宗教画などもいつか見たい。

そんなことを思いながら、久々に良きものを堪能出来て、満足度いっぱいで美術館をあとにした。私は今になってもまだ正確な遠近法が描けないので風景や構造物は自ら積極的に描くことはないだろうが、大変勉強になったし、久々に良い疲れ方をした。

美術館の後はお茶タイムと相場は決まっている。本気でじっくり観賞すると疲れるし、色々感想を持ち寄るのも楽しい。近くにあった家具のMURAUCHIの最上階にある静かな(流行ってなさそうな)レストランカフェでひと休み。なかなか落ち着く空間だ。村内美術館ってのもある。家具の名品とかが展示してあるのだろうか(調べてみたら19世紀フランス絵画コレクション、家具の名品、ついでに可愛らしいイセッタまで展示してあるらしい。BMWだから??)。

 

ぶっちゃけ、私はクルマの絵が(も)描けない。愛車だけは描いてみたいのに描けない。まぁ前述の通りクルマだけでなくほとんどの構造物はパースが苦手なので描けないのであるが、クルマの構造をわかっている人ならきっと描けるであろう、という視点のもと、「クルマ写生オフ会」という斬新なアイデアが出た笑。クルマを描ける人は私にそのノウハウを教えて頂きたい・・・・特にルーテシアは難しそうだ。しかしあの曲線美が造形的魅力のひとつでもあるので、疎かには出来ないポイントだ。

ゆえにジブリ作品で描かれる乗り物や機械は、本当に「知っている人」じゃないと描けない賜物なのだと思った。そして、そこが私の周囲にジブリファンの多い理由のひとつではないかと確信した。

国立近代美術館で開催中の高畑勲展も気になっている。一流のクリエイターの仕事には、末端底辺の私たちにも必ず学ぶべきもの、揺さぶられるものがある。