クルマで巡らない『奇想の国の麗人たち』展

皆さんは日本の伝承文学、もっとシンプルに言えば昔話などはお好きだろうか?恐らく日本人の誰もが無縁ではいられない。家族間で、絵本で、あるいは学校の授業で、何かしら昔話には触れてきていると思う。ちゃんと文学しているものから、いい加減な言い伝えまでそれはもう色々ある。地方によってもまた様々なヴァリエーションがあるし、怖い話から説話的なものまで内容も多岐に渡る。

これを書いている今も、日本じゃないがチャイコフスキー の『白鳥の湖』など聴いている。バレエ少女であった頃の自分に瞬時に戻れるのだが(そして私は当時から黒鳥派である。清純なオデットより、やっぱ妖艶なオディールよ)、西洋だと魔法をかけられて動物にされちゃったりする。しかし日本では動物などが人間に化ける話が多いのではないか。狐、蛇、猫など。

私は幼い頃から母の影響で昔話の類に親しんでおり(まんが日本昔話のお話本は全巻持っていた。そして私の名前も某民話に出てくる少女の名前から名付けられた)、中でも女が化けて男をとり殺す話が大好きだ。その代表と言えるのが『道成寺』で、幼い頃は「あんちんときよひめ」のお話として愛読していた。大学の卒業制作は当初、この『道成寺縁起絵巻』の模写を考えていたが、今は自画像と決めているのでこの案はなくなった。しかし、その他にも『ゆきおんな』や『牡丹燈籠』『雨月物語』『玉藻前』など、今でも私にインスピレーションを与え続けているお話がたくさんある。異形のものが絡む話が好きだ。『南総里見八犬伝』などもいい。

ちなみにいわゆるホラーは苦手。伝承文学の中の恐怖は好きなのだが現代のホラーは敬遠している。

大人になってからも絵本は時々買う

私のあやし系コレクション

本郷の弥生美術館で開催されているこの展覧会は、まさに私好みの世界観がどんぴしゃな展示であった。

好きな伝承物語の女主人公をほぼ描いている橘小夢(たちばなさゆめ、男性です)の本画と、今気になっている画家の加藤美紀さんの本画を見るのが目的。

このあたりは東大の裏になるのだが、住むには良さそうだ

この美術館は竹久夢二美術館と繋がっており、いつ行ってもエントランスでは『宵待草』のレコードか何かがかかっており、胸がきゅんとする。
あの歌、夜に歩きながら口ずさむとなぜか泣けてくる。30年くらい前?にNHKで放映されていたドラマ『音・静かの海に眠れ』で効果的に使われていた(余談だが、このドラマは私がこれまで観たドラマでベスト3に入る素晴らしいドラマである)。

日時指定制なのでガラガラと思いきや、結構な人数が。
それほど広い美術館ではないので致し方ない。「会話はお控えください」という注意書きがあるにも関わらず、2人の女性客が展示室中に響き渡る声でキャッキャとおしゃべりしていた。多少BL系の展示もあったせいか、女性2人組という客が多かった。「きゃー、これこわーい」という奇声が聞こえたが、その怖さ、恐しさに美を感じないタイプなのだろう。

幽霊画などにしても、多くの場合は女性で、しかも大抵は美女だ。山奥に棲んでいる訳アリそうな女も多くの場合は美女である。美女だから男は取り込まれ、殺されたりするので、美女でなければ話が成り立たない。むしろ男性は古くから、美しい幽霊や化け物(西洋だと美しい吸血鬼とか)にもてあそばれたいという願望を持っていたのではないか。

加藤美紀さんの作品は想像通り素晴らしかった。
背景の美しさもさることながら、女性の目力が強く、クラシックな題材を描いているにも関わらず、非常に現代的で見ていて気持ちが良い。
日本画ではないので日本画家ではないのだが、描いているモティーフや世界観が好き過ぎて。是非男性も描いて欲しい。

左右は加藤美紀さんの作品。真ん中は夢二。バタ臭いが構図が好きでずっと眺めていた。

ついでに竹久夢二の作品も見る。
彼本人は恋多きモテモテ男だったが、描く女性はバタ臭いというか、あまり好みではない。むしろ彼は風景画のほうが素晴らしいとさえ思う。だがセンスがいいのは事実で、当時の本の装丁などはお洒落だ。

『奇想の国の麗人たち』は書籍になっており、裏カバーにも加藤さんの作品。

九尾の狐・・・背景の京都の夜景が美しい。

来年は国立近代美術館で、このような絵が一同に会す「日本のあやしい絵」展の催しがあると言う。今から楽しみで仕方がない。