クルマで巡らない「あやしい絵展」

1週間前から左脇腹が痛い。これは筋肉系の痛みだ。普段の筋肉痛の20倍くらい痛む。今はだいぶマシになり、痛くない時間が長くなってきた。しかし痛みにも波があり、特に夕方帰宅する時の運転時に襲ってくると、クラッチ操作をするたびに恐ろしい。しかし私は絶滅危惧種である。こんなことで間違っても「クラッチペダルを踏まなければ痛くないのかも」などど考えてはダメだ。

良いこともあった。胃に食べ物が入ると連動して痛くなっていたので、一日の食事はお粥を一杯だけ。そうしたら簡単に2キロちょい痩せた。ジム復帰はまだ出来ていない。

そんな状態であるのに、美術館へは這ってでも行く。なぜなら、今回の展覧会ははっきり言って私のためにあるような企画だからだ。実際に行ってから一日以上たった今も、引きずっている。

まずこの宣伝用の絵からして一度見たら忘れられない眼差しだ。岩井志麻子著、100年前の日本の禁忌をすべて詰め込んだホラー『ぼっけえ、きょうてえ』の表紙にも使われている、甲斐庄楠音先生の傑作『横櫛』。じっとりとした湿度ある狂気と美、という完璧なコンボで大好きな作品でもある。

出品リストを眺めただけで9割は私の好きな作品または作家であるので、這ってでもやって来たわけ。最初のコーナーは国芳や芳年の合戦画や血みどろグロ浮世絵なんぞが続く(それでもだいぶソフトな表現の作品を選んだと見える)。そして、曾我蕭白の不気味な『美人図』で鑑賞者をおおいに期待させておいて、クライマックスは後半に持ってくるという上手なダイレクション。そんな中でも今回の私のお目当ては2つ、両方とも本物を初めて見ることが出来た。紹介しましょう。

島成園。これは彼女自身を描いた=自画像とも言われている。右半分の顔の痣にまず目が行くが、私は背景の未完成に見える植物群がとても気になる。これは彼女が実際に制作していた作品なのではないか。そして彼女の姿勢。色々なドラマが想像出来て(しかもどれも不幸だ)、たまらない。本物を一度見たかったので、この絵の前に長いこと佇んでしまった。口紅は深紅ではなく、今風に言えばブリックレッドというような、お洒落な色だった。

あなたは何を私に訴えているのだろうか。。。。画面に朱が効いていてゾクゾクする。大好きな作品。

そして北野恒富『道行』。

たまりませんな!!!!

それしか言えない・・・「道行」とは心中に向かう男女のランデブーとも言おうか、文楽や歌舞伎の世界ではよく出て来る。この作品も近松門左衛門による『心中天綱島』を主題としている。それぞれの目を見て欲しい。やっぱり人間の感情を描き出すには「目」が非常に重要だということをこの展覧会を通して私は学んだ。カラスの構図も完璧だと思う。

京都の近代美術館のコレクションでもある岡本神草、甲斐庄楠音の名作を一堂に会して拝見出来る素晴らしい展示。

画集でしか見たことがなかったあの絵が目の前に狂気とともに現れる幸福感たるや。

さらに!もともと好きな小村雪岱や橘小夢が描くファムファタル、上村松園が六条御息所を描いた有名な『焔』まで出ちゃってる贅沢過ぎる内容。ストーリー要素では泉鏡花の『高野聖』や、安珍と清姫でおなじみの道成寺関連の作品もあり、女の狂気を美しい絵の中に見ることが出来る最高な展覧会。

再び島成園先生。女の絵だと思う。つまり女だから描けた絵。やっぱり目は大事!この絵は背景の絵具がキラキラしており、とても美しかった。そういうのは本物を間近で見ないとわからない。

会場内にはこのような気の利いた歌の一節が書いてあったりする。

他にもピアズリーなどの西洋の絵もチラホラ。でもね、やっぱり日本画ですよ、この湿っぽさは。そして、湿っぽさだけではなく、そこに「粋」というエッセンスがある。

あまりの濃さに痛みも忘れて徘徊してしまったが、後期展示も出かけるつもりだ。岡本神草の『口紅』も後期だ。こうなったら全部見たい。

戦利品を紹介。

小村雪岱の作品で私がもっとも好きな刺青の絵がマスキングテープに!!即買い。

グッズもかなり充実しており、あれこれ買ってしまった。

見つけたら必ず買う生首Tシャツ。大好きなサロメのモティーフ。

少し前に湘南で、妻が夫をのこぎりで殺す事件があった。クズ夫に対する積年の恨みを晴らしたという話であるが、妻側も残り少ない人生を「殺人者」として過ごすことを選んだ、ということに悲しみを感じる。そして、復讐というその感情は自然だ。ネットなどでも彼女に同情する声は多かった。その一方で、83歳の夫の胸の上に乗り、弱って死んで行く姿を上から見下ろしていた、という話もあり、私はそこがとても好きだ。出来れば微笑しながら見下ろしていてくれたらなおさら素敵だ。それが彼女の人生のクライマックスだったのだろうか。端から見たら狂気かもしれないが、男に対して復讐したいと強く願ったことのある女なら、それが狂気なんかではないこともわかるだろう。狂気ではなく、快楽なのだと思う。でも狂気を突き詰めたら快楽に行き着くのかもしれないな、、、などと、そんなことまで思い出して非常に濃い時間を過ごした。

この展覧会は「あやしい」テーマ以前に近代日本画の傑作自体も多いので、自信を持ってお薦めしたい。大阪にも巡回するそう。

2 Replies to “クルマで巡らない「あやしい絵展」”

  1. こんにちは!いやいや、私のは単なる「感想文」で「評」のレベルではございません・・・お読み頂きありがとうございます。
    中村恭子さんの作品、ウエブで観てきました!絹本に描いていらっしゃるのですね。美しい・・・現代日本画はどんどん観て行きたいと
    思っています。ご紹介ありがとうございます。
    画家は同時に研究者でもあるのかなぁ。実際に「感情赴くままに」描いている人のほうが少なくて、やはり勉強・研究することによって自分の描くモティーフ
    に説得力が増す、あるいは自分の思考や世界観をより正確に伝えることが可能になるのではないか・・・と私は勝手に考えているのですが、
    膨大な情熱がなければなし得ないことですよね・・・尊敬しかありません。

  2. 美術評をいつもうなずきながら読ませてもらっています。あやしい絵たちに会いたいような…コロナ柯で、新潟からだとなかなか行けなくて残念です。
    ところで、先日、新潟で、中村恭子という若い日本画家の個展を見て、とても驚きました。軸と屏風と絵巻物に、精緻で美しい絵が描かれて、輝いていました。文字ではうまくお伝えできませんので、検索して見ていてもらえれば、と思います。
    ちょうど、アートスペースキムラアスク?という京橋のギャラリーで、4月3日まで『書割少女のアンチノミー』と題して個展をしています。おすすめします。11時30分-19時 日曜休み。
    異なる言語が手招く 中村恭子 で検索すると、この人の論文が読めます。画家というより研究者なのかもしれません。
    なんとなく、お気にめすかと思い、お伝えします。

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