クルマで巡らない金沢21世紀美術館、他

数年前、東京都写真美術館で見た写真家・岩根愛さんの作品『My Cherry』が、金沢の21世紀美術館で再度見られると知って、3月までに必ず金沢へ行こうと思っていた。同じ期間に大好きな日本画家・木村了子さんの作品も展示されているので、これはもう絶対に行かなければ!!ということで、2泊3日で出掛けてきた。今回は娘と一緒。

上野から北陸新幹線に乗車するが、その前に「上野の森美術館」に寄って、私の失敗作が展示されているのを確認。油絵に挟まれていた。

『Daydream』 高知麻紙、岩絵具、銅粉

絵具のひび割れが~!!この作品についてはまた別の機会に。

気を取り直して新幹線に乗車。「はくたか」の旅。雪深い金沢を想像して、分厚い靴下やカイロを持って来た。窓から見える平野は雪に覆われている。温暖な湘南に暮らす私には新鮮な風景だ。

が、結果的に金沢の市街地の雪はそれほどでもなく、こちらと変わらないくらいだった。ただ、金沢城や兼六園などでは、人の足が踏み入れてないところは雪がキラキラ残っており、とても美しかった。雪吊を見ると、金沢に来たんだなあという実感が湧く。

今回は香林坊の「変なホテル」に宿泊。

このご時世、人と触れないこのシステムはいいのかもしれない。この恐竜たち、実物はけっこう迫力があった

金沢の場合、駅周辺より香林坊のほうが、目的地に徒歩圏内なので便利だ。近くに美味しいモーニングを出す喫茶店も見つけた。ダイワというデパートもある。

音楽と共に床にお花が咲く仕掛けがお出迎え

ちなみに「変なホテル」は名前とは裏腹に、とても快適なホテルだった。設備も清潔だしお風呂も広く、アメニティも洒落ている。

着いてからすぐに、ホテルの向かいのブロックにある武家屋敷跡を訪れる。野村家という武家屋敷が残っており、中を見学出来る。京都とはまた違う日本の美意識を垣間見ることが出来る場所だ。お庭がいい。

コンパクトにまとまっており、一枚の絵を見るような、そんなお庭

中には小さな博物館もあり、武士のお手紙を見ることも出来る。美しい字だ・・・花押もカッコいい。ただ純日本家屋なだけに、足は冷える。

城下町の風情を感じるには良いエリア。

翌日は朝の散歩と称して、尾山神社から金沢城経由で21世紀美術館へ歩くコースを選んだ。

ステンドグラスと避雷針が珍しい尾山神社の門。前田利家とまつを祀ってある

しかし思いのほか金沢城公園が広くて、あわや予約時間に遅れそうになった。そりゃそうだ、「加賀百万石」を築いた藩主のお城なのだから広くて当たり前。小田原城とは違う・・・

お城の石垣と雪の相性は抜群。古城の風情が漂う。

さて、21世紀美術館は、私が大好きな美術館のトップ3に入ると思う。5,6年前に訪れた時も思ったが、周囲のエリアとうまく一体化されているので、誰もが屋外のパブリックアートを楽しむことが出来るのが素晴らしい。特に子供たちは楽しそうだ。現代美術、というと敷居が高いイメージだけれど、誰もが自由に楽しんでいるこの美術館の屋外エリアを眺めていると、幸せな気持ちになれる。一番有名なのはエルリッヒの『スイミング・プール』だが、プールの下に潜るのに5時間待ちとかあり得ない・・・まあ、人数制限しているのは仕方ないとしても。この作品は上から眺めるより下から見上げたほうが面白いゆえ。

今回ここに来た目的である展覧会『ぎこちない会話への対応策-第三波フェミニズムの視点で』、『フェミニズムズ』展を鑑賞。

私を金沢まで来させた作品は写真家・岩根愛さんの『My Cherry』。プロジェクターにセットされたスライドが順番に壁に映し出される形式だ。カシャン、カシャン、というプロジェクターの音だけが室内に響き、映し出されるのはコントラストの弱い桜のある風景と、ある家族の日常・・・何度も登場する赤いコートが印象的な女性は、作家の妹さんだという。あまり幸せそうには見えないその表情と、至って普通の、「すぐ隣にもいそうな」親しみを感じる彼女の姿を眺めているうちに、空っぽの部屋が表れ、棺に納められた彼女の顔が表れ、そこで鑑賞者は彼女が亡くなったことを知る。アラーキーの『冬の旅』を想起させる。表現者として、身内の死を見つめるということはどれほどのことなのだろう。

絵を描くようになって思うのは、写真は容赦ないということ。そこが写真の魅力でもあり恐ろしさなのではないか。私は絵と同じくらい写真展を見るのも好きだけれど、時々恐ろしい。

岩根愛さんの撮影した東北の桜の写真が、私がこれまで観た桜の写真の中で最も美しいと思うのだが、彼女の中の「桜」とは、この妹さんの亡くなった季節の象徴でもあることを知って、いたたまれない気持ちになる。止まらないプロジェクターの機械音が巡る季節、巡る生命を想像させる。人は生まれ、生き、死んでいく。それをリアルに感じる作品なので、立っているのも辛くなる。でも、もう一度見られて良かった。木村了子さんのイケメン日本画もバッチリ見られたし、満足度の高い展覧会だった。金沢まで来た甲斐があり、おまけにミュージアムカフェのバナナパイがとても美味しかった。

ミュージアムカフェからの眺め。世界の色が変わる仕掛けには人がいっぱい。

帰り道、KAMU KANAZAWAという現代アートギャラリーで、エルリッヒの作品を体感する。エッシャーの世界がリアルになったような感じだが、人間が想像出来るものは人間が創り出せる、という誰かの言葉を思い出した。青森の美術館にもエルリッヒの作品が常設展示されると言うニュースを少し前に見たような気がする。
ここのギャラリーはとても狭いのだけれど、受付のスタッフさん含め入場システムがちょっとおかしいと思う。特に予約は必要ないのだが、建物の中に入れるのは多分8人くらいで、外で少し待つ必要がある。スタッフに呼ばれて中に入ると、入場券を自販機で購入し、それが終わるとダラダラとスタッフから変な説明を受ける。これ、人間より機械にやらせたほうが絶対に良いと思った。3階までギャラリーは続き、展示されている作品はどれも面白いので、もうちょっと運営システムを改善したほうがいい気がする。

私はどこにいるのかよくわらかない

金沢と言えば海鮮だと言う方が多いけれど、海鮮が苦手な私は何を食べるかと言うとカレーだ。今回はチャンピオンカレーとゴーゴーカレーを食べた。銀の皿にキャベツ、ごはん、カレールー、カツなどのトッピング、そしてフォークで食すのが金沢スタイルらしい。サラサラしたカレーは好きじゃないので、ちょうどいい感じ。美味しく頂いた。他に和菓子やらお茶やら色々食したが、やはり水が美味しい地域はだいたい美味しい。お酒、お米、お菓子、お茶、何でも美味しいのだろう。お酒は飲めないので残念だが、土産に地酒を買った。

美術館のほかには、兼六園内の成巽閣で前田家のセレブ具合を体感。しかしやはり足が冷える!それでも襖の下部に描かれた挿絵的な可愛い絵や、女性の住まいらしいエレガントな内装は「こういうお屋敷に住んでみたい」という願望を呼び起こす。ちょうど「前田家のお雛様」という展示をやっており、お雛様自体はもとより、お雛様用の日常品のミニチュアがすごい。小さくても本物であり、そのすべてに前田家の家紋が入っている。前田家と言えば参勤交代の大名行列で「先頭は江戸に入ったのに最後尾はまだ北陸にいる」と例えられるそうだが、当時圧巻のセレブリティであることには間違いない。

兼六園はガイドがいたほうがきっと楽しいと思う。お庭は広大なので、漠然と歩くよりも「この造形にはどういう意味があるのか」等、作庭のうんちくを聞きながらのほうが面白いだろう。

もう少し雪があったらもっと美しかったはず

来てみたかった泉鏡花記念館。生家跡らしい。

ひがし茶屋街の手前、浅野川の近くにこの記念館はある。泉鏡花と言えば彼の作品の装丁を数多く手掛けた小村雪岱は私のお気に入りのイラストレーターである。泉鏡花の作品自体は『高野聖』と『外科室』くらいしか読んだことはない。鏡花は10代で上京しているため、ここは記念館であって博物館ではなく、ちょっと物足りなかった。

茶屋街の中にある、加賀藩御用菓子司『森八』さんにて

金沢は、百万石の余裕なのか洗練された街だ。京都のような華やかさとは違い、渋い美ではあるのだが、あの落ち着いた感じが私は好きだ。金沢と言えば金箔が代表的な工芸ではあるけれど、やたらとキンキラキンしてないところがまた上品なのだ。街を歩いていると、行き交うクルマがスタッドレスタイヤを履いているせいか、走行音がこちらと違って不思議な効果音のよう。

金沢駅ナカに、美術館で食べたバナナパイの店があった。Maple Houseという店だ。もちろん、バナナパイをまた食べる。ふと、関東にも出店していないか調べてみると・・・なんと地元藤沢駅が出て来た。駅のコンコース内にあるシュークリーム屋さんがMaple Houseらしい。バナナパイは売ってなさそうだ。藤沢駅に到着後に確認してみると、店名の下に「KANAZAWA」と書いてあるではないか。シュークリームはそれほど好きではないのでノーチェックだったが、多分美味しいはずなので今度買ってみよう。

新幹線から見える日本海の無彩色が素敵だ。私はスキーはしないけれど、北陸へは冬がいいのかもしれない。金沢は定期的に訪れたい街だ。

2 Replies to “クルマで巡らない金沢21世紀美術館、他”

  1. ひろさん
    美術館、是非楽しんでください。正解がない世界なので、好き勝手に楽しめるのが美術の良いところだと思います。
    ひろさんはご自身も写真を撮られますし、是非!
    昨今は地方の美術館のほうが良い企画を持っていると実感しています。

  2. 岩根愛さんの作品、とても興味を持ちました。なんとも衝撃的だと思います。私にとっての桜の季節はこうなんですという表現。その人なりの表現したいものをその人なりの表し方で。それが評価されるのが美術なんだなぁと、随分久しぶりに美術館を訪れて思わされたところです。美術館から得る刺激というのを味わってしまったので、これを期に美術館を楽しんでいこうと思います。

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