クルマで巡らない原澤亨輔『記憶の風景』展

隔週で上野の日本画教室へ通っている。以前学校の授業でご指導頂いた先生のクラスがあるので、学校とは別に、そこで学んでいる。学んでいると言っても、各々が好きなように制作しており、それに合わせて先生が個別に指導してくれる、という場で、成績のつくスクーリングに比べたら緩くて快適だ。一応初心者用にテーマも設定されており、今は銀箔を使った絵を制作している。

お天気も良く、教室が終わったあと谷中のギャラリーまで歩いて行くことにした。あのあたり、すごく素敵なエリアだ。観光地に隣接しているのに、静かで、道が細くて下町情緒があって。

さて、皆さんは「日本画」と聞いて思い浮かべるのはどんな作品だろうか?

私の周囲を眺めても、日本画を描かれる方は圧倒的に花、木、山、水、動物などの自然の美を描かれている。皆さんが日本画と聞いて思い浮かべる作品も、恐らくそのような作品なのではないか。私も見るのは好きだ。屏風や掛け軸に表装された琳派の花鳥画や、狩野派の壮麗な障壁画・・・日本画ってやっぱ江戸時代だよね〜って感じ。しかし、やはり一番好きなのは江戸の浮世絵師が当時の風俗や人を描いたもの。普遍的な美よりも、時代の空気みたいなものが溢れている作品が好きだ。例えば葛飾北斎の美人画にあって、上村松園の美人画にはないもの。そのあたりに私の好みのポイントがありそうな気がするが、あまり深く考えたことはない。

SNSで偶然流れて来て、私の心を鷲掴みにした原澤亨輔(はらさわ こうすけ)さんの作品に、実際に会いに行って来た。皆さんにも見て頂きたいので、まずは作品を並べてみる。

以上の4点は浮世絵から着想を得た作品で、ご自身で版を掘って作られているとか。

すべて日本画の作品。つまり、日本画の画材「岩絵具」で描かれている。『群衆の人』の部分をアップで見てみると、

この緑は紛れもなく岩絵具の「緑青」(伝統的な日本画では主に植物の葉や茎に使われている)だ。近づくと黒などの他の色もキラキラしており、岩絵具の質感以外の何ものでもない。なのに、離れて見ると非常にスタイリッシュ。デジタル表現のようなドットも入っていて、美しいと同時にカッコよ過ぎてため息しか出ない。こんな洗練された日本画って、なかなかお目にかかれない。胸が高鳴る。すごく好き。

作家さんご本人がいらっしゃったので、お話も出来た。物腰柔かい好青年である。日本美術の中の日本画は確かに自然美を描いた作品が圧倒的だけれど、自分が生まれて生きている現代の東京の都市風景に惹かれると仰っていた。直線的なモティーフがお好きだそう。作品の中の人物も、都市の中のひとつのパーツとして捉えている、とのこと。私も初心者ながら日本画を描くので、色々と勉強になるお話も聞けた。小さなギャラリーは作家さんご本人が在廊されていることも多いので、直接お話を聞けてとても有意義な時間を過ごせる。入りにくいけどね。これからも応援していきたい作家さんだ。

私は普遍的な美よりも変化する美のほうに惹かれる。人工物や「今」を描くことに惹かれる。元から自然に対してあまり美や感動を感じないこともあってか、学校の課題でも植物や風景画になると本当に憂鬱だった。「よし、花を人間だと思って描いてみよう」とかやってみたけれど、あまり効果はなく・・・。花びらの一枚一枚、木々の葉の一枚一枚を描いていると苦痛で気が狂いそうになる。そこから開き直って、風景の中に愛車を登場させてみたら少しは描く気になるかも?と思いついたはいいが、クルマが描けない〜!という壁にブチ当たり、とうとう先生に描き方のコツを習う始末(私の先生は、以前バイクと女の子をモティーフにした作品を描かれているので、タイヤがついた乗り物は朝飯前なはず!!と思った)。がしかし、日本画でZを描く、という機会を得た私は、悩みながらも楽しく進めている。

確かに絵画にルールはない。とても自由なものだ。だが初心者ほどセオリーにハマってしまいがち。もちろん、基礎としてそれは必須な時もあるのだけど、自由制作で「何を描くか、何を描きたいか」を考えなければならない時、前回の堀江栞さんや今回の原澤亨輔さん、こうして現代日本画の作家さんの作品に出会うと、とてもインスパイアされる。そして、好きな作家さんが増えるのが嬉しい。

がんばろう・・・

「クルマで巡らない原澤亨輔『記憶の風景』展」に4件のコメントがあります
  1. 分かりました。今度、個展に作家さんらしき人がいらっしゃったら一言だけでも気持ちを伝えてみます。何の知識もないので語彙力足らずでろくなことを言えないと思い構えてしまいました。絵を描く同僚は偶然にも版画展の作家さんご本人を画材屋さんでお見掛けしたそうで、ちゃんと感想を伝えたそうです。私も勇気を出して笑

    1. ひろさん
      是非是非。よく美術鑑賞とかって「知識もないし・・・」と構えてしまう方が多いんですけど、知識なんて要らないです。
      食べ物や服、クルマなどと同じで誰でも「これは好き」「これはイマイチ」という嗜好を持ってるはずで、アートも同じだと私は思います。
      「このクルマ、カッコいいですね」と同じですよ笑
      「もっと深く知りたい」と思ったら、初めてその時に知識を増やせばいいので、大丈夫です。

  2. そうですね、日本画というと風景が思い浮かびますよ。今回の作家さんもモダンな絵を描かれててイイですね!先日行った版画の個展で有名な作家さんの浮世絵がありました。浮世絵って凄く昔というイメージがありましたが現在まで作家さんはいらっしゃっることを知りました。そして現代の作家さんの作品がとても綺麗だったのが印象的でした。私は現場に作家さんがいらっしゃると緊張して視線を向けることすらできません笑

    1. ひろさん
      浮世絵を制作されている作家さんは現代にもいらっしゃいますね。また、浮世絵風の画風の方もいらっしゃるし、
      浮世絵が与えた影響ってすごいんだなーと思います。私は彫刻刀恐怖症なので、版画は一生出来ないと思います笑

      機会があれば是非作家さんとお話してみてください。ただ一言、「あなたの作品が好きです」と伝えるだけでいいと思います。
      私がもし個展を開くとしたら、やはり「好きです」と言ってくれるのが一番嬉しいと思うのです。

コメントは受け付けていません。