クルマで巡らない「佐伯祐三展」と「シーレ展」

東京駅内の東京ステーションギャラリーで「佐伯祐三展」、東京都美術館での「エゴン・シーレ展」を見て来た。

どちらも特に思い入れが強い作家ではないのだが、一般教養として鑑賞。

偶然にも2人とも若くして病で夭折しているということ、そして残されている写真を見るとなかなかなのイケメンであることが共通項だろうか。佐伯のほうは数年前に見た東京美術学校の卒業制作である自画像が印象に残っており、今回パリを描いた作品を初めて鑑賞した。

東京ステーションギャラリーは、とにかく雰囲気が抜群に良い。前回は岸田劉生展で訪れたが、やはり日本の近代洋画の展示が一番合っている気がする。

作家が誰であれ、パリを描いた作品を目にするたびに思うのは、パリという街は本当に変わっていない。20代の佐伯の目に映ったパリは、現代の私たちの目に映るパリとそう変わらないはずだ。全体的にダークな画面になるが、あちこちに貼られたカラフルな広告が作品の中によく登場するのは若者の視点らしいと感じた。でも、日本で彼が描いた日本の風景のほうに私は惹かれた。電柱の表現がすこぶる上手なのだ。

彼が家族に出した手紙(パリへの渡航予定などが綴られている)や、パリから友人に宛てた手紙のほうが面白くて、ショーケースに近づいて熱心に読んでいたら係員に注意された。実は「近づき過ぎて注意される」ということが私にはよくあって、知らない間に近づいているようだ。マスクをしなかった時にはガラスがあっても、よく自分の息で曇ってしまって見えなくなって「あ、近すぎ」と気づいたりしていた。だって近くで見たいんだもん。本物を近くで見たいから美術館に行くのですよ。近くで見ることと、離れて見ること。両方が必要!注意された場合は素直に謝って少し離れるけれど、その後に他の作品に移動した時も係員のロックオンを感じるのだった。

何でもかんでも海外と比較するのもどうかと思うけど、ルーヴルにせよウフィッツィにせよメットにせよ、信じられない近さで名画を鑑賞出来た(今はどうか知らない)、というか、廊下とかショップの裏とかにさりげなく名画が展示してあったりするので、本当に巨匠の作品を「身近」に感じることが出来るのだが・・・

ルーヴル。あの名画もこの近さ!
モロー美術館にて。好きなだけ近づいて鑑賞。

しかし、上野の「シーレ展」では、それすらも出来ないほど大混雑していた。日時指定制のチケットで、夕方の最後の枠だったにも関わらず、展示室の中は大変な混み具合。なんだ、みんなそんなにシーレが好きだったのか、と思ってびっくりした。ちなみにグッズ売り場では店の外にまで長蛇の列が出来ていた。もう一度言う。みんなそんなシーレ好きなの!?シーレグッズを買うほどに!?まあ、シーレに限らずオーストリア文化と日本人は親和性高いのかも。

ちなみに画像はない。普通はどこかしら撮影してくるのだが、あまり関心がなかったためか何も撮って来なかった。

私はシーレの作風は好きではない。どちらかと言うと嫌い。ただ、今回見た彼のデッサンや初期の作品は普通に上手で、才能は確かに感じる。けれど、それが作品になって、あの禍々しい表現になると、どうも苦手なのだ。それよりも、彼自身の写真のポートレートのほうが興味深い。どれも見栄えを意識しており、「俺ってイケメンだしアートの才もあるし、カッコよくね?」というナルシシズムがおおいに感じられ、それが逆に好感度を上げたかもしれない。屈折した気味の悪い自画像も、実際の自分が整っているからこその表現なのかも。一方で、恋人である女性をスケッチしたのなんかは、すごく洗練されていた。線も色も妙にスタイリッシュなのだ。女を描かせたほうが上手なタイプなのか。おっさんになるまで生きていたらどんな作風になっていたのかを想像するのは楽しいが、美男短命ということも含めてエゴン・シーレなのだと思った。というわけで、展示の内容としてはクリムトのけだるいスケッチなんかを見られたことのほうが私には有益だったと思う。和紙に鉛筆で描いたスケッチがあり、なぜ和紙を使ったんだろう、と考えたり。自分が描く側になってからは、スケッチやデッサンのほうが見ていてワクワクするようになった。

ものすごく混雑はしていたが、これだけの人が「絵を見に美術館へ行く」という行為を楽しんでいる、と思うと、何かしら安堵のようなものを感じた。

さあて、自分はどうするか。次は何を描こうか。

「クルマで巡らない「佐伯祐三展」と「シーレ展」」に2件のコメントがあります
  1. 佐伯祐三とエゴン・シーレ、僕も見てきました。人気ありますね、この二人は、特に女子に。僕も佐伯の自画像とシーレのポートレートに惹かれました。モテただろうなあ。早逝したことがわかっているから感じるのかもしれませんが、亡くなるころの絵は、キツイ感じがします、それより、一時帰国して描いた下落合の町の人や道、クリムトに弟子入りしたころの花の絵が、将来を感じさせて、好きです。
    ところで、三鷹市美術ギャラリーで、合田佐和子展を見ました。レンピッカを思わせるチラシに釣られました。とてもよかったです。容姿端麗な女流画家と言われたそうです。作品は、絵もオブジェもあり、美しさもあり、毒も可憐さもありました。お薦めです

    1. とさまさん
      行かれましたか!2人ともモテたでしょうねぇ・・・美術を勉強するようになって、以前よりも画家の初期の作品に
      着目するようになりました。そこからの作風の変遷を見るのが面白いというか。
      画家個人をテーマにした展覧会だと、全盛期の作風と初期の作風がまったく違うことが多々あって。
      晩年(と言ってもこの2人は若いですけど)の死に近づいた時の作風などもまた違うので興味深いですよね。

      合田佐和子展はポスターを見て気になってました・・・多分私の好きなタイプだと思います。今月までですね。時間を作って見たいと思ってます!!

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