青き世界のイタリア車

まるで夜の海のようなプールで黙々と泳ぐ女。
かと思えば行きつけのカフェで1人コーヒーを飲んで煙草を吸う。
「私だって普通の女よ」と笑う。

ジュリエット・ビノシュ。

彼女が出演している作品はどれもお気に入りなのですが、この作品は特別に好きです。
「トリコロール 青の愛」(原題:TROIS COULEURS: Bleu 1993年 フランス)キェシロフスキ監督作品。

3部作になっており、青、白、赤の3つの物語をそれぞれジュリエット・ビノシュ、ジュリー・デルピー、イレーヌ・ジャコブが主演しています。

この「青の愛」は、とてもとても静かな作品。青みがかった映像のせいもあるのでしょう、静寂な空気が最初から最後まで流れています。ですが物語はそうでもありません。ビノシュ演じるジュリーは自動車事故で作曲家の夫と娘を一度に亡くします。一人生き残り、喪失感から抜け出せない彼女ですが、夫の友人であった男に助けられながら少しずつ淡々と前向きに生き始めます。夫が作曲途中であった「欧州統一のためのコンチェルト」も仕上げようとします。ですが死んだ夫には愛人がいたことがわかり、お腹に夫の子供を宿しているというキツい展開に・・・

 

シックなイタリア車

この映画で印象的なのが、冒頭わずか数分しか登場しないこのクルマ。

 

幸せ(なはずだった)家族3人が乗車しています。流れて行く風景と、車窓からそれを眺める幼い女の子。ですが、わずかな足音を立てて死はやって来ます。

アルファロメオ164。アルファロメオと言えば私には華やかなイメージですが、ずいぶんとかけ離れたシックな外観です。イタ車には見えません。お友達の「走る辞典」ことFugupediaによれば、アルファロメオってこんなクルマも作っていたとか。ちょっとコメントに困る類のクルマですね・・・大衆に売れるクルマを作るのか、ニッチなマーケットを確実に抑えるのか、大人の事情が複雑に絡んで妙なクルマが世に出るのか、クルマメーカーも色々なのだなと思いました。

 

 

映画に登場するクルマは、星の数ほどある車種から明確なコンセプトを持って選ばれたはずです。なので、どうしてこのクルマなのか、をあれこれ想像するのも楽しいんですよね。この映画の場合、所有者は音楽家です。古城のようなおうちに住んでいるのでお金持ちなのでしょう。でも、だからと言って、高級車であっても見るからに派手で華やかなクルマを選ばないところが趣味の良さを表しているのかもしれません。クルマも濃紺に見えます。フランス人の選ぶイタリア車、ってことなんでしょうか。

 

音楽の救いと呪縛

喪失と再生の物語、と言葉にすれば簡単なのですが、彼女が再生出来たのかどうかはわかりません。ところどころに挿入される亡き夫の作品「欧州統一のためのコンチェルト」がとても重厚で、彼女の感情を代弁しているよう。パリの雑踏もピガールの猥雑な雰囲気も彼女の目を通すと「淡々」としているところが辛いのですが、そこがこの映画の魅力でもあると感じました。

ちょっとした小物も青色で統一されています

 

人生において大きな問題に直面した時、すべて捨て消し去ってしまいたい、つまり無かったことにしたいと思うのは当然のこと。主人公ジュリーもそうでした。夫の書きかけの楽譜を燃やし、家は売却の手配をし、遺品はすべて夫の友人に任せ、身一つでパリへ引っ越してきます。ですが、彼女の頭の中には常に音楽が鳴っているんですね。正確には、夫の音楽が。それが彼女を前向きにもさせ、逆に過去から逃そうとはしてくれない。セリフが少ない代わりに胸がきゅっと締め付けられる描写が多く、辛い映画ではあります。最初に悲劇が起こるのでもうこれ以上悪いことは起こらんだろう、と思っていると愛人が登場して来たりして、もう本当に「辛過ぎる!」と叫びたくなるのですが・・・見終わった後は不思議な清涼感すら覚えます。私にとっては精神安定剤のような映画。じわじわと泣いてしまうけれど。

 

印象的な人物が時々画面に現れますが、私が特に好きなのがこのおばあちゃん。

 

パリのおばあちゃんは腰が曲がってきてもハイヒールを履いている!そして素敵なコート、バッグ。日本ではこんなおばあちゃん、なかなか見かけませんね。

 


こんな気分にこの映画

何かを失って前を向けない時間をやり過ごした後、少しだけ前向きになれた時
音楽の力に触れたい時
真の独り暮らしの自由さと寂しさを体感したい時
自分を赦したい時

 

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