フォードでダバダバダ

少女が夢見るザ・大人とは

昨年、公開から50年周年ということでセレモニーも行われた「男と女」(1966年、フランス)。
ダバダバダの音楽はあまりにも有名ですが、私はこの映画で「大人の恋愛とは何か」を知りました。もちろん、自分が生まれる前の映画なのですが、何もかもが素敵過ぎて、初めて観た時はめまいがしたものです。

年若い私にとって「大人の女」の代名詞であった女優、アヌーク・エーメ

女はアンヌ。職業は映画製作スタッフ。スタントマンの夫を撮影中の事故で亡くしたシングルマザー。彼女のソロのシーンはモノクロです。ひとつひとつの仕草がいちいちエレガント。

 

ジャン=ルイ・トランティニャン。昔は美男だと思っていたが今見るとそうでもない

男はジャン=ルイ。職業はレーサー、ラリースト。過去ル・マンのレースで事故って生死をさまようが、生還した。妻は精神的疲労が重なり自殺。シングルファーザー。

子供たちがドゥーヴィルの寄宿学校に通っているので、保護者同士として2人は偶然出会います。終電を逃したアンヌをパリまで乗せて行くことになったジャン=ルイ。地図で見るとドゥーヴィルからパリまで結構な距離です。初めて会った者同士でこの距離はきついんじゃないの?と大人になった私は思うのですが、2人とも決して饒舌ではなく、ポツリポツリと自分のことを話します。たまにジャン=ルイが気を利かせてジョークを飛ばしたりするんですが、アンヌのほうは「ふふふ」と物憂げに笑うのがまた「ザ・大人の女」な振る舞いに見えました。

2人はお互いに「愛する人をつらい形で失っている」という重い過去を背負っています。それがこの物語に影を落としていて、特にアンヌは亡き夫のことをまだ整理出来ていません。ジャン=ルイに惹かれていることは確かなのに、事あるごとに夫を思い出すアンヌ。それに比べてジャン=ルイのほうはちょっと遊び人風なのが時々ムカつくんですけど、フランス男はあんなもんでしょう。私が以前少しだけ付き合ったことのあるフランス人も同じような感じでしたし。

日本では親になると恋愛御法度みたいな風潮がありますが(配偶者がいれば当然ですけど)、子供がいても当たり前に恋愛をするフランス人素敵過ぎる!!と思ったものでした。

ラリーが終わってからその足で彼女のところに駆けつけるシーンがとても好きです。
いつの時代も、好きな相手のところへクルマで走って会いに行くのは特別な高揚感がありますよね。

 

フランスのアメリカ車

この映画でもうひとつの主人公と言ってもいいのが、このクルマたち。

モンテカルロ・ラリーに出場したジャン=ルイがそのまま乗って彼女に会いに行ったフォード マスタング。「走る辞典」Fugupediaが探して来てくれた当時の実際のマスタングの画像がこちら(1965年)。

引用元  https://www.carthrottle.com/post/a54yo4x/

 

ジャン=ルイのプライベートカーとして登場するのもフォード マスタング(初代)だとか。フランス映画なのにアメリカ車ってところが面白いですね。背景にアメリカ車である理由があったのかもしれませんが、テストコースでの映像は迫力もあり、クルマ好きにも楽しめるラブ・ストーリーです。

映画の冒頭、息子に運転させてます笑

モノトーンに近いドゥーヴィルの風景に、赤いボディがとても映えます。やっぱり赤いオープンカーってもう永遠にカッコいいんじゃないかと思っちゃいますね。

 

そして、ドゥーヴィル。死ぬまでに一度は訪れたい海辺の街。恐らく観光地化されているとは思いますが、いつか砂浜に立って海を眺めながらこの映画と、この映画に胸をときめかせた少女の頃の自分に思いを馳せたいと願っています。

 

この物語の結末はハッピーエンドでもなくバッドエンドでもありません。余韻を残した終わり方は、女性のほうが共感出来るんじゃないかと思います。アンヌの揺れ動く心はどちらに傾くのか・・・

ちなみにパート2も製作されましたが、観たのを後悔しました。本作の余韻が台無しになって、非常に残念な出来でしたね。しかし本作は今も私の憧れであり続けています。

 


こんな気分にこの映画

クルマがエッセンスになった恋愛物を観たい
フランス流の「大人の恋」を味わいたい
恋した相手の元へクルマを走らせたあの頃の自分に戻りたい