アデューは赤いアルファロメオから

不機嫌な顔が美しい女性に、見とれてしまいます。
笑顔より不機嫌な顔。例えば、古いですがブリジット・バルドー。

今回は彼女とゴダールのカラー作品「軽蔑」(1963年 フランス・イタリア)。
生活のために映画の脚本を書くことになった作家と、その妻のお話。

 

女は普通に「愛してない」と言える生き物

冒頭からいきなりその美しい肢体を晒し、夫に甘える可愛らしい妻という入り方なのですが、それ以降はほとんど最後まで、もうずーっと不機嫌です。ゆえにずーっと美しい。どうやら妻はもう夫のことを愛してなくて、別れたいと願っているようなのですが、話はそう単純ではありません。これは是非、男性と論じ合いたい映画ですね。

女は自分の愛する男を尊敬していたい生き物。この夫はお金のためにやりたくもない映画の脚本執筆を受けるのですが、それが妻は気に入らないわけです。でも夫からすればそれだって妻のため。良い暮らしをさせたいがため。

さらに夫の仕事相手である映画プロデューサーが何かと妻を誘惑してきます。妻は夫に盾になってもらいたいのに、夫はいい人過ぎて不甲斐ない。「君の好きにすればいいよ」は理解ある言葉とも受け取れますが、裏を返せば無関心とも言えます。

妻は確かに夫を愛していた。でも、あまりにも不甲斐ない夫を「軽蔑」するようになり、気持ちが冷めて行く。「もう愛してないの」と簡単に口にします。そしてついに夫を置いて映画プロデューサーとクルマでローマへ去るのですが、事故に遭い2人とも死んで終わり、というザ・フレンチスタイル。たまりませんな! 彼女が書き置きした夫への手紙で、鑑賞者も彼女の不機嫌の理由をちゃんと知るのですが・・・時すでにもう遅し。不機嫌な女が笑顔になった時ほど恐ろしいことが起こるものです。

 

イタリア車は散り際も潔い

プロデューサーが所有し、2人の最期の舞台となるクルマがこれです。やっぱり赤いオープンカー。わりと早い段階で登場してきます。


「あなたのアルファロミオで」というセリフがありました。
Fugupediaによれば、これはアルファロメオ2000スパイダー。イタリア車のイメージはやっぱりコレ。華麗に走り、華麗に散る。
前回のフォード マスタングも赤いオープンカーでしたが、やっぱり雰囲気が違いますね。こちらのほうがチャラい感じがします。むしろ女性の運転のほうが似合うのではないでしょうか? 自分で所有するなら断然こちらです。映画の中では「金持ちの嫌な感じの男が乗っている」という、いかにもな設定なところが安心です。

私の過去の知人にも、本当に好きな男が不甲斐なさ過ぎて、別の強引な男と結婚した女性がいました。幸せになれたかどうかは本人にしかわかりませんが、心に別の男を思いながら暮らすというのは相当辛いように想像します。罰ゲームみたい。

女には言って欲しい時があるんですよね。「行くな」とか「帰ろう」とか。それを「君の好きにすればいいよ」って言われると腹が立つというのは痛いほどわかります。ヤキモチを焼いて欲しい時もあるんです。映画の中でも、妻は夫が見ているのをわかっていてプロデューサーとキスしたりして夫の気持ちを試すんですけど、夫はそれでも煮え切らない。見ているこっちもいい加減イライラしてくるほどですが、ダメダメフレンチ男はどこか憎めないのもまた事実。

 

赤と煙草は欠かせない

私が特に好きなシーンはこちら。

ブリジットのブルネットのウイッグ、体に巻いたバスタオルの赤、手拭きタオルの黄、タンクの白、というこの色彩バランス。絵画のようにハマってます。
女性が煙草を吸うシーンが大好きです。少女の頃から憧れていたので、それが今も私が煙草を吸ってしまう理由でもあるのですが・・・ブリジットクラスだと本当にサマになってますね。まぁ、何をしていても絵になるが故に女優なのですけれど。

映画全体はとてもドライですが、不機嫌な美しさをたたえるブリジットの魅力を存分に味わえる作品です。私は地中海よりも、部屋の中での会話シーンのほうがずっと素晴らしいと感じました。

 


こんな気分にこの映画

男の不甲斐なさにイライラしている時
関係を終わらせたいが、どうやって終わらせようか考えている時
本音と建て前に嫌気がさした時