アメリカ人はパリが好き
アメリカ人のパリ好きは数々の映画にもなっているくらい、鉄板モノ。どれもだいたい、アメリカ人がパリにやって来て、ちょっとほろ苦い思いをするのですが・・・本作はほろ苦いどころか誘拐事件に巻き込まれるというサスペンス。
ですが、そこはポランスキー監督作品、なかなかに感情を揺さぶってきます。
「フランティック」(1987年 アメリカ)
主演はあのハリソン・フォード。相手役に、後にポランスキー監督夫人となるエマニュエル・セイナー。音楽はあのモリコーネです。オープニングタイトルとエンドロールに流れる3拍子のテーマが印象的。
ストーリーを簡単に。
アメリカ人の医者(ハリソン)が学会でパリへ妻とやって来ます。ところが妻のスーツケースを取り違えて持ってきてしまう。それが原因で妻が何者かに誘拐され、妻のスーツケースを取り違えた若い女(エマニュエル)を見つけ出し、2人で事件解決へ向けて動くのですが・・・
ボロいのがいい
事件を追っかける2人の移動は、彼女の愛車であるビートル。FugupediaによればVW タイプ1のカブリオレだそう。黄色くてぼろっちいのが逆にお洒落。常に彼女が運転、ハリソンは助手席で悪態をついているのがおかしくて。
このビートルって、どうしてこんなボロっちい姿がサマになるんでしょうね。クルマの造形のせいなんでしょうか。この「使い倒してる」感じがすごくいいんです。走っているのすら奇跡的、みたいな。
やっぱり赤いドレス
私がこの映画を好きな理由のひとつは、
完全に不良娘(でも義理堅い)な彼女が少しずつハリソン演じる堅物アメリカ人オヤジを好きになっていくところ。それを表現するセリフは皆無なのですが、彼女の目線や会話の間合いで、観ている人が「ああ、好きになっちゃったのね」とわかるんです。
決して美人さんではないのですが、惹きつけられる顔立ち。いかにも影がありそうな佇まい。なのに、下手くそな英語がものすごくキュートで、そのアンバランスさが魅力です。堅物で妻を探し出すことに躍起になっているハリソンは無粋な男で、彼女の気持ちには気づいていないよう。あくまでも「妻を探し出すための相棒」という感じです。
物語のクライマックスでは、彼女は赤いワンピースを着ています。
この「赤いドレス」はラストシーンでとても切ない役割を果たすのですが・・・赤いドレスを着た女に弱い私には、皮肉なラストでした。
ハリソン・フォードが「パリで事件に巻き込まれる厄介な医者」を真面目に演じていますが(彼はどの映画でもよく事件に巻き込まれていますけど)、アメリカ人ですら堅物に見えるパリの「ものすごくいい加減な感じ」がよく表現されている映画。
日本人も昨今では「我介せず」な人が多くなってきたようですが、フランス人のそれは真骨頂です。それゆえに「パリのアメリカ人」ハリソンも苦労をするのですが、思わずその間抜けさに笑ってしまうシーンもあり、一緒になって「フランス人、冷たいよね」なんて呟きたくなります。
オープニングは空港から市街へ向かう高速道路、エンディングは市街から空港へ向かう高速道路の映像を使っていて、観ている私たちも一緒にパリに滞在していたような気持ちにさせてくれる粋な演出。でも、ラブストーリーとして観ると、切ない結末でいつも泣けてきます。またモリコーネの音楽が心にずんずん沁みてくるんですよね。おすすめです。
こんな気分にこの映画
堅物のおっさんに恋をした時
パリのアメリカ人のおかしさを味わいたい時
真面目に生きるのに疲れた時