女。オープンカー。煙草。旅。そして銃。
これらの要素だけでもじゅうぶんに魅力的な映像になるに決まっていますが、私が「女のドライブ」と聞いて真っ先に思い出すのがテルマ&ルイーズ(1991年 アメリカ)。サー・リドリー・スコット監督作品(いつの間にサーに・・・エイリアン、ブレードランナー、ブラックレインとかの人です)。
破滅へのロードムービー。でも彼女たちにとってそれは破滅ではなく、自由や解放という光みたいなもの。フェミニズム的映画でもありますが、2人の女がオープンカーに乗って煙草をスパスパ吸いながらアメリカ中西部の道をひた走る、という映像にいつもワクワクします。
若い頃、痴漢やセクハラをされてメソメソと泣いてしまう女性がいることが私には信じられませんでした。なぜやり返さないのか、なぜ強く出られないのか。でも、世の中私みたいな女ばかりじゃないことくらい今はわかります。恐怖や不快感は人それぞれ。強さも正しさも人それぞれ。戦い方も人それぞれ。
夫から抑圧されている冴えない主婦テルマと、辛い過去を背負いながらウエイトレスとして働くルイーズ。
人のいいテルマと、人を信用しないルイーズ。ちょっとアホっぽいテルマと、粗野だけど頼れるルイーズ。
対照的な2人が親友というのもすごくわかります。似た者同士が親友になるよりも、価値観や思考の異なる2人がお互いを受け入れて信頼し合うのが真の友情だから。
ルイーズを演じているのは、私が「ハリウッド女優で一番煙草が似合う女」だと思うスーザン・サランドン。憧れのおばちゃん。テルマを演じるのはジーナ・デイヴィス。キム・ベイシンガーから色気を取った感じ。旅の出発時にはお化粧もして小奇麗な恰好をしている2人ですが、映画終盤では野性的な風貌に。
アメリカしか思い浮かばないクルマ
ルイーズの愛車は、エメラルドグリーンの1966年式フォード サンダーバード。私からすればTHEアメ車です。マスタングはすごく洗練されたイメージなのですが、こちらのサンダーバードは思いっきりマッチョなイメージがあります。同じフォードなのに。
ドアをいちいち開けなくてもドアをまたいで乗車出来、飛び乗ることも可能。これは低くてでっかいオープンカーならでは。けっこうな量の荷物もトランクに入りそうだし、アメリカ大陸を旅するには最高のアイテム。化粧っ気のなくなった彼女たちがこのクルマに乗って乾いた荒野の道をすっ飛ばす映像はとにかく「カッコイイ!」の一言。それは彼女たちの「腹をくくった潔さ」があるから。アホな姉ちゃんが同じことをしても多分カッコよくないんです。
私はアメリカ時代にニューメキシコ州にいたことがあるので、ちょっと懐かしい風景でもあります。本当に地平線に向かって走って行くんですよね。走っても走っても地平線は変わらず、突如ビル群が見えてくる。ビルとビルの間に地平線が見える風景。一生忘れないと思います。
すべてを背後に置き去りにして前へ
最初はオツム弱そうな言動が目立つ世間知らずのテルマですが、犯罪を犯すにつれて逞しくなり、最後は「人生で初めて目が覚めているような気がするの」とルイーズに言います。一方のルイーズは最初から最後までカッコいい女。男を憎んでいると思いきや、愛してくれる恋人もいて。テルマをレイプしようとした男を射殺した後、男の死体に「言葉遣いに気をつけて」と言うシーンはゾクゾクします。
道中、セクハラをしてくるタンクローリーのこきたない男やパトロール中の警官をやっつけ、最後は警察の大群すらも置き去りにしてアクセルペダルをベタ踏み・・・
旅に出た時、2人はただ日常の鬱憤を晴らすことが目的でした。ほんの2泊3日の小さな旅。それが途中から逃避行に変わり、暴力的になり、彼女たちは薄汚れて逞しく、そして美しくなっていく。ピアニシモから始まってフォルテシモで終わる、そして静寂が。そんな映画です。
私がオープンカーに乗りたいと思うのは、この映画の影響も多大にあります。借りてきた猫みたいに男の隣で髪と化粧を気にしながらちんまり座っているタイプじゃありません。もっとドライに殺伐と。そんな風に乗りたい。それは根底にこの映画の残像があるからだろうと思うのです。
こんな気分にこの映画
女の生き様を目の当たりにしたい時
辛いことを乗り越える力が欲しい時
アメリカ中西部でクルマを走らせたい時
全世界の男という男が嫌になった時