成人男女のためのレースオペラ

今更?なんて言わないで

クルマに興味を強く持ったのが遅すぎるゆえ、本当に今更な話ばかりで恥ずかしいのですが、カーレースって画面越しに観てるだけでもアドレナリンが噴き出してくるような感覚になるんですね。ワクワクが半端ない!!

前回に続き、今回もクルマ映画です。Fugupedia推薦。

公開年は1966年!すでに半世紀も前の作品ですが、とっても「映画らしい映画」で興奮しました。

 

 

「グランプリ」(原題 GRAND PRIX 1966年 アメリカ)

4時間ちょいと長丁場。冒頭に序奏、中間に間奏パートがあるのはオペラのよう。音楽はモーリス・ジャール。往年の映画ファンに知らない人はいないでしょう。私の母親世代だと「アラビアのロレンス」、私自身は「敵、ある愛の物語」「刑事ジョン・ブック/目撃者」とか「ゴースト/ニューヨークの幻」とかですね。

内容はその名の通りF1グランプリで各地を転戦するドライバーたちの人間模様と、疾走するクラシカルなF1マシンを楽しめる作品です。

あらゆる要素が詰め込まれています。レース上のドラマはもちろんのこと、生と死、ビジネス、どん底と再起、満ち潮と引き潮、理性と感情、妻と愛人、お国柄、出会い、別れ、復縁、裏切りetc  色々起こるので長尺でもまったく飽きません。

主な登場人物はこの8人。

 

http://erikdoorme.be/Grandprix/pagina2.html より拝借

 

左上から時計周りに

・ピート(図体のデカいアメリカ人レーサー。成績不振でチームを解雇されるも日本車に乗って再起)
・ミス・フレデリクソン(アメリカ人編集者。自立したバツイチ女性。ジャン=ピエールといい仲に)
・ジャン=ピエール(フランス人の色男。フェラーリのベテランレーサー)
・矢村(世界のMIFUNEが、F1に新規参入の日本メーカーオーナーとして渋く出演)
・リサ(バーでニノにナンパされた不機嫌なフレンチガール)
・ニノ(陽気なイタリア男。チャラい。元二輪チャンプで、ジャン=ピエールの後輩)
・パット(スコットの妻。可憐な妻かと思いきや相当なビッチ)
・スコット(おぼっちゃま風の英国男。優秀なレーサーであった兄の死を背負っている)
この8人を軸に色々な人間関係が各地のGPの進行と同時に描かれていきます。

 

当時のF1マシンがカワイイスゴイ

しょっぱなのモナコGPの映像からクライマックスのモンツァまで、一気にひき込まれます。そして欧州各地の美しい風景。地を這うようにして走るマシン。車載カメラで撮影された映像では、自分が運転している気分になれますね。スリリングです。私にはサーキット走行無理、と思いました。たとえこんな速度が出なくてもです。

マシンは60年代なので、ロケットっぽいスタイル。あるいは昆虫みたい。見た目はおもちゃみたいに可愛いのに、ものすごい速度で駆け抜けていく映像は圧巻でした。フェラーリの赤、BRMの緑、日本の架空チーム矢村の白が灰色のコンクリートに映えます。昔の欧州の人たちは、レースとフットボールさえあれば娯楽は要らなかったんじゃない?と思うほどの大衆的熱狂も描き出されています。

 

モナコは行ってみたけど相当場違いな気がする・・・

ちなみにこの映画を観た後に、動画サイトで最近のF1の映像をいくつか鑑賞したのですが・・・こりゃワクワクしますなぁ!生で観たい。今更なんて言わないで(笑)。

 

取り巻く女たちは

レーサー自身それぞれに色々問題があるのですが、自称「大人の女」である私はやっぱりイヴ・モンタン演じるジャン=ピエールに惹かれますね。もう近寄っただけでワインとタバコの芳香で降参してしまいそうなおじさまです。この人の笑顔は、今で言うサイモン・ベイカーと共通するものを感じます。笑顔にちょっと悲しそうなニュアンスが混じってるんですよね。天性のモテ男のみに装備された「悲しそうな笑顔」ですよ。

このジャン=ピエールには「レースは観に来ない」という妻がいるのですが、レース会場で出会ったアメリカ人の独身キャリアウーマンと恋に落ちます。この2人はまあ単純に言えば不倫なのですけど、すごーく素敵な関係なんですね。ウィットに富んだ会話や控えめな愛情表現。そして、お互いを人間として尊重し合っているのがわかる。でも、お互いの立場をわきまえているので、別れ際も「素敵な時間を過ごせてとても幸せだった」と言えるわけです。まあ、「女性は独立し過ぎないほうがいい」というムカつく一言もありましたけど笑。最後は私も彼女と一緒に「ジャン=ピエールぅぅぅ!!」と叫んでしまいました。

 

そこのあなたも明日からシャツのボタンを外しましょう

 

一方、モナコGPで重傷を負ったイギリス人レーサー、スコットに「もうこんな生活は耐えられない」と離婚を突きつける妻パット。常に死と隣り合わせのレーサーと生活を共にするのは大変なのねぇ、と私もしみじみ同情したのですが・・・物語が進むにつれて彼女はわりとクソ女であることがわかってきます。

若きイタリア人レーサー、ニノがバーで引っ掛けたリサは、ちょっとの出演時間ながら強烈な印象を残します。「踊ろうよ」「私は踊らないの」「タバコ吸う?」「タバコは吸わないの」「お酒飲む?」「お酒は飲まないの」と全部Noで返事をする彼女が私は好きでした。演じている歌手のフランソワーズ・アルディは「さよならを教えて」しか知りませんが、若い頃はスレンダー美人だったんですねぇ。

意外にも泣けた

前回の「栄光のル・マン」が非常にドライな映画であったのに対し、こちらはウェット。最後のほうでフェラーリの黒旗が振られた時、私も思わずウルっと・・・

とにかく色々な要素がたっぷりと詰まった作品なので、かなり見応えがあります。よく盆と正月が一度に来たみたい、とか表現しますけど、そんな感じ。かと言ってバタバタするわけではなく、1人1人のストーリーがちゃんとわかるので、誰かにとってはハッピーエンドだし、誰かにとってはバッドエンド。私個人は切ないものを感じましたね。

お尻から火を噴いたまま突っ走ったり、サーキットを飛び出してクラッシュしたりとアクションシーンもなかなかでしたよ。

大人の娯楽映画、と言ってしまえば安っぽく聞こえますけれど、「人間それぞれ色々なものを背負って生きている」ことが経験上わかっている成人男女にオススメです。クルマ好き、人間好きの方はこれからの秋の夜長に是非。