魅力的な豚野郎

渋み満点の男臭さ

私がもし男に生まれていたら・・・一生独身を貫く。女は取っ替え引っ替え。スーツにこだわり、時々運試しにギャンブルに手を出す。美味い酒を美しく飲む。友達をあまり作らず、自分の信念だけを軸にして生きて行く・・・なんて、この映画を観ていたら妄想してしまいました。ハードボイルド小説ってチャンドラー以外読んだことないんですが、男に生まれていたら、やっぱり憧れていたのかしら?

ミラーズ・クロッシング(Miller’s Crossing  ジョエル&イーサン・コーエン監督作品 1990年 アメリカ)。

何年も前に映画変態の友達から薦められて観た作品。突然また観たくなって鑑賞。コーエン兄弟なので色々と一筋縄ではいかないけど、ギャング映画にしては女の私から見ても「美しい」作品だと思います。それは渋い色調で落ち着いた映像、どちらかと言うと「静」の映画だからかもしれません。ほとんど男しか出て来ない画面に不思議な静寂を感じます。

 

 

そもそも、ドンパチが苦手。北野武監督の「アウトレイジ」シリーズも観たいのに、ドンパチシーンが怖くて観られないくらい。海外だと金字塔の「ゴッドファーザー」は胃もたれするピザを食べた後のような感じで好きになれず。タランティーノ監督のデビュー作「レザボアドッグス」は逆に大好物でした。ギャング物で一番好きかも。あれは宝石強盗が発端なのでマフィア抗争とはちょっと違いますけど。本作でもスティーヴ・ブシェーミが出演しています。レザボア同様、相変わらずペラペラと機関銃のように喋りまくるキャラクターで、笑いどころです。彼のセリフは字幕の文字数じゃ収まりませんね。

ドンパチでも許容出来るものとそうじゃないものがあります。ドンパチに限らず、戦争ものやバトルものは食指が動きません。大義よりも個人的なドラマのほうが好きだからかも。男性はマフィア物とか好む方が多いのではないでしょうか。例えば暴力団抗争の記事が書かれた週刊誌とか立ち読みしたりしませんか?でも、この作品は「血がドバー!」みたいな描写は極力抑えられていて、観る側の想像力を刺激されるようなシーンが多いです。

マフィア対立の中で

舞台は禁酒法時代(1920年代)の古き悪きアメリカのとある街。登場するクルマもクラシック。ストーリー自体は単純で、移民の国アメリカの定番、イタリア系マフィアとアイルランド系マフィアの争いが大軸です。その中での裏切りやら復讐やらと。それだけ聞くと「ありがちなギャング映画」と思ってしまうのですが・・・そんなことはない!!それは主人公トムの不思議な存在感。トムはアイリッシュマフィアのボスの側近。クールで、知的で、ツキのない男。演じるのはガブリエル・バーン。この映画以外で見かけた記憶がないのですが、この映画だけでじゅうぶんかも。彼のスーツ姿も、ちょっと情けないサスペンダー姿も、帽子をかぶる姿も、ウイスキーのグラスの持ち方も、すべてが絵になっている。そして、決して笑わない。でも、ボスの女とちゃっかり出来ちゃってます。

 

色気ムンムンタイプじゃないのに、なぜか男の魅力満載な人

 

このボスの女、ヴァーナ(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は私好みのビッチなキャラクター。彼女も笑いません。常に不機嫌。そして、彼女の弟のバーニー(ジョン・タトゥーロ)がすべての元凶であるクズ中のクズなんですが(観てるほうもイライラする名演技!)、そんな弟のことを守るためにボスの女となります。この映画の中で女性キャラクターは彼女くらいしかメインで登場しないので余計に印象が深く、トムをぶん殴るシーンがとっても好き。決して怯まない女ですが、トムに惚れてんのね・・・というのがわかって唯一感情移入出来る人物。ナヨナヨした美女でないところもイイ。

 

男顔で見るからに強そうです。誰かに似てるんだよな・・・

 

 

大好きな美しい銃撃シーン

派手な銃撃戦自体は少ないのですが、これまで私が観た映画の銃撃戦で、もっとも好きなのがこれです。

アイリッシュマフィアのボス、レオ(アルバート・フィニー)を消そうと、敵対するイタリア勢力が刺客を送り込んでくるのですが、気づいたレオが刺客を蜂の巣にするシーン。有名なアイルランド民謡「ダニー・ボーイ」のおっとりしたメロディにマシンガンの乾いた連射の音が重なって、感動的な相乗効果を生み出しています。セリフは一切なく、表情を変えずにガウン姿でぶっ放しまくるレオがもう渋くてカッコ良くて、このシーンを観られただけでもこの映画の価値が上がるってもんです。ボニーとクライドが最後に蜂の巣にされた時のようなウエットな感情は一切なく、ひたすら無味乾燥なシーンなだけにカッコいいんです!

 

思わず「オヤジ、かっちょいい!!」と声に出してしまう名シーンです

 

男性に観て欲しい!

主人公トムは計算高いのか、ピュアなのか、タフなのか、ナイーヴなのか、とこまでが嘘か本当か、最後までまったくわからない男。Nobody knows anybody.というセリフがありましたが、まさにその通り。私たちから見る彼もまた、そうなのです。「豚野郎のくせに小さなハートはあるのね」とヴァーナに言われますが、そういうセリフを面と向かって言いたくなる男というのは、魅力的である証拠。古今東西、強い女ほどダメ男にハマる傾向にありますが、トムもそういう意味ではダメ男の部類に入るのかもしれません。カッコつけ、とも言えます。結局は自分のことしか考えてなさそうにも見えますが、意外とそうでもないところもあり、そういうちょっとした隙間が女を惹きつけるのかも。

 

クラシックな男性の装い、今ではあまり見ないですね

 

タイトルのミラーズ・クロッシングは劇中に登場する森の中の場所のようです。なぜMiller’s crossingなのかは未だに私にもわかりません。ラストシーンのトムの心情は、男性ならわかるのでしょうか?ってことで、派手なギャング映画ではないので好き嫌いが分かれる作品だとは思いますが、是非男性に観て欲しい1本。

ダシール・ハメット作「ガラスの鍵」というハードボイルド小説がベースになっているそうです。