おじさまの妄想力がこの世の美を創る

例えば10代から見たら、30代でも「おじさま」になるのではないでしょうか。自分の10代を思い出しても、確かに30代の男性は「おじさま」でした。そういう意味で「おじさま」と言える年代はとても幅広く、呼ぶ側の世代に選択権があるように思います。どこからどう見ても「おじさま」になるのは40代からでしょうか。もちろん個人差はありますけど。

さて、子供の時からおっさん好きの私にしてみれば、自分もおばさんの年代になり、改めて「おじさまとは何か」を考えてみれば、やっぱり自分と同年代はそれほど感じないのですよ。やはり50代後半からが「おじさま本番」といった趣です。

とても、心に染み入る映画を観ました。

 

 

原作は室生犀星。執筆当時69歳。もうおじさまではなく「じじい」の域です。

これは原作もとっても素敵なのですが、映像化された本作もここ1年くらいに観た中でベスト3には確実に入ります。

老作家(犀星自身と言われています)と、愛くるしい金魚の赤子(あかこ)ちゃんの愛のお話。赤子ちゃんは人間の女の姿で老作家を翻弄しますが、それ自体が老作家の妄想だと言うことに観る側は痛ましさと滑稽さを感じてしまうのです。

 

「あたいね、おじさまのお腹のうえをちょろちょろ泳いでいってあげるし、あんよのふとももの上にも乗ってあげてもいいわ、お背中からのぼって髪の中にもぐりこんで、顔にも泳いでいって、おくちのところにしばらくとまっていてもいいのよ、そしたらおじさま、キスができるじゃないの、あたい、大きい眼をいっぱいにひらいて唇をうんとひらくわ、あたいの唇は大きいし、のめのめがあるし、ちからもあるわよ。」

「大事にしてあげるよ、おじさんも人間の女たちがもう相手にしてくれないので、とうとう金魚と寝ることになったが、おもえばハカナイ世の中に変ったものだ、トシヲトルということは謙遜なことおびただしいね、ここへおいで、髪をといてあげよう。」

日本文学全集33 室生犀星集 集英社 1968年 より

 

とうとう金魚と寝ることに(笑)。痛ましい。そして可笑しい。こんなセリフが全編に溢れています。金魚の赤子ちゃんは今でいうコケティッシュ、小悪魔的魅力を持った、頭のいい、そして少々エモーショナルな女の子。体が赤いから、すぐに感情が燃えてきちゃうそうです。同じ小悪魔系でも谷崎潤一郎「痴人の愛」に登場するナオミは計算高い相当なビッチでしたが、赤子はその点とても純粋。おじさまが大好きなんです。演じるは二階堂ふみちゃん。そして、老作家には先日亡くなられた大杉漣さん。原作の世界観を見事に表現されています。

 

 

特に「おじさま」方に観て欲しい映画です。というのも、誰しもが必ずいつか直面する苦悩そして煩悩だと思うからです。映画の中のセリフにもありますが、老いてゆくと心持ちが少年の頃と同じになっていく。だから、相手がいくら若くても自分がじじいだとは心のどこかで否定していたい。ですが、気持ちが少年へ戻っても体が役に立たない。性的に、という意味で。これがどれほどの苦悩を男性に与えるのかは、私は女なので永遠にわかりません。ですが男性にとって生とは性なのかなぁ、と想像することは出来ます。老いを楽しむとか世の中はきれいごとで溢れてますけど、やっぱり人間である以上、生=性への執着からは死ぬまで逃れられないのではないだろうか、と私は思うのです。これは、個人差はありますが女にも言えるかなぁ。

男の人って、誰しも心のどこかで、自分よりずっと若い女の子に「おじさま」とか「パパ」とか呼ばれてみたい願望があるのではないかと私は思っているのですがどうでせう。

数年前に観た「赤い玉、」も、売れなくなった老いぼれ映画監督の性への執着を描いた物語でした(ちなみにこの作品は現在私が学んでいる大学が制作に関わってます)。しかし表現者にはそれを表現する手段があります。アラーキーなんかがそうですね。70代に入っても精力的に女のエロを撮り続けてますし。作家ならこのように作品で消化あるいは昇華させることが出来ます。

さて、赤子ちゃんと老作家は口汚く罵り合う痴話喧嘩もします。さらには、老作家の愛人やら過去の女の幽霊やらが登場して、現実と妄想の境目が曖昧になっていくのが観ていて気持ちがいい。

金魚の赤子ちゃんですから、お洋服もバッグも帽子も靴もすべて赤です。いつも持っている水筒も赤。これがたまらーん!私のように、赤いものが好きな人にもお薦め。そして、二階堂ふみちゃんの丸い顔と体つきが金魚の擬人化そのものに見えてきます。幽霊役の真木よう子さんもあえて華のない演技で良いですし、芥川龍之介役の高良健吾くんなんか「実際に芥川ってこんな男だったんだろうなぁ」なんて思わせる佇まいでした。

赤い色調の映像がとても好きです。
海外だと「ラスト・エンペラー」「覇王別姫」「花様年華」など中華系に多いように感じますが、日本の文芸映画もなかなか捨てたもんじゃありませんね。

そして今ふと気づいたのですが、ルーテシアって金魚っぽくないですか?特にルージュフラム。

 

すべてのおっさんにお薦めしたい映画。今ならAmazon Primeで視聴可能です。

 

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おじさまの妄想力がこの世の美を創る” への2件のフィードバック

  1. DRIVER "A" のコメント:

    それはまだひろさんご自身がお若いからですよ、きっと。あと数十年したらわかりませんよ笑。でも、ある年齢を境に、精神的にはどんどん若返っていく現象は私もとってもよくわかります。好みなんかも10代の頃と似てきたりして。

    やはり、お尻が美しいのは正義ですね!シルエットは本当に金魚っぽいと思いました。

  2. HIRO@LUTECOCO のコメント:

    面白そうな映画!今の所、10歳以上年の離れた後輩を見る限りでは私は年の離れた年下と仲良くなりたい願望はないようですが、こんな可愛い子なら・・・笑

    ルーテシアって、金魚っぽい!その通りだと思います!アッカー氏が日本が好きだから?金魚モチーフとは聞きませんが無関係でもなさそうな気がしてきます。

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