卒業制作以降、なかなか新作の制作へのモチベーションがなかったが、リハビリとして小さいサイズの作品をスタートさせた。一晩かけて乾燥させるので、下塗りをした後にエアロバイクを漕ぎ、その後の寝る前の隙間時間に、映画でも見るかという気分になった。あまり重くなさそうな感じのドラマを探して、最初に出て来た『幸せなひとりぼっち』(字幕版)をチョイスした。結論から言って、この邦題は良くない。シンプルに原題の意味(オーヴェという名の男)のほうが良い気がした。
珍しいスウェーデン映画。言葉も新鮮だし、北欧独特の空気の暗さもいい。すべてがくすんだ色で。
主人公はオーヴェという偏屈じじい。最愛の妻を亡くし、現在一人暮らし。日本にも店のレジなんかで、店員に屁理屈としか思えないクレームをぶつけている老人を見かけるが、あんな感じだ。彼らもきっと寂しいのだろう。かと言って他人を受け入れるどころか攻撃してしまう老人、世界共通なのだな。
彼は自身が暮らしている小さな集落の管理人のような業務もしており、規則違反にはやたら厳しい。長年勤めた会社からもクビを勧告され、死んで妻の元へ行きたいと願っている。そして、何度も自殺を試みるのだが・・・(毎回自殺する時はきちんとスーツを着ているのも可愛いのだ)。
物語自体はよくある展開なのだけれど、重要アイテムとして登場するのがクルマ。オーヴェはSAAB崇拝者。これは父親譲りで、SAABが最高のクルマだと考えている。そして、ともに集落の管理で協力し合ってきた仲の、隣人のルネ。彼とは友人だったが、唯一相容れないのが、彼はVOLVO派だった。ルネが新型を買えば、オーヴェも新型を買う。そのうち彼らはクルマが原因で疎遠になり(笑)、月日が過ぎたある日、オーヴェのほうから「なあ、そろそろ仲直りしようぜ」と持ち掛ける。しかし、ルネがガレージを開けるとそこから出て来たのは、あのドイツ車で・・・笑と、クルマに関しては笑いどころが多い映画でもあった。
SAABと言えば以前見た『ドライブ・マイ・カー』の赤いクルマがそうであったように、そのスタイリングは独特の美が宿っているイメージだ。実車はほとんど見たことがない。一方、VOLVOは見慣れているせいか、北欧車と言えばVOLVOがすぐ思い浮かぶ。一昔前の、いかにも頑丈そうな四角いやつが好きだ。ちなみに私はどちら派でもない。基本的に北欧車には惹かれない。TOYOTA VS NISSANならNISSAN派、RENAULT VS PEUGEOT なら当然RENAULT派ですがね。
話を映画に戻すと、最初はクルマごときで仲違いするのって友達じゃねえだろ、と思ったりもした。「友達」とは、応援するチームが違っても、政治的主張が違っても、好みのアーティストや推しが違っても、それを受け入れ認めあえるのが本来なんじゃない?と。でも考えてみたら、意外と下らないことで絶交した友達も過去にいたし、まあ結局は人によるよね、と考え直した。
若い頃のオーヴェを演じた役者さんが、サラサラ金髪の北欧イケメンなのだけど、奥さん役の女優さんが本当に太陽のような明るい美人で、画面がとても美しかった。過去の回想シーンではちょっと涙ぐんだりもしてしまったが、エンジンが絶好調のクルマで走っている時の「生きてる、って感じがするだろ」というセリフには大共感。私も自分の愛車で気持ち良く走っている時には「I LOVE MY LIFE!」と叫びたくなる。
映画の終盤には「ルノーだと?フランス車を買うのか!?」というセリフもあり、クルマ好きのじいさんてめんどくさいよね~笑、と微笑ましい気分にもなれた。
結論から言って軽い映画でもなかったが、好きなクルマがそばにある人生は、そうじゃない人生よりもちょっとだけ幸せなんじゃないか、と思った。そんな映画。そして、男手のない我が家には、何でも直してくれるオーヴェみたいな人がいたらいいな、とも思った。
トム・ハンクス主演でリメイクも作られたらしいが、いかに・・・
SAABと言えば名だたる航空機メーカーでもあり、その独創的なメカニズムと設計思想が特徴的ですね。
夜間スピードメーターだけが光って運転に集中させるためのナイトパネルなんて機能もありました。
SAABの自動車部門は切り離されてGMグループになったあと倒産、という残念な経緯となりましたが。
VOLVOと言えば何と言っても安全思想で、3点式シートベルトの特許を取ってから他社も使えるように無償公開したというエピソードなんかも有名です。こちらは今も残ってはいますが、昔のどちらかと言えば実直な車つくりから「オシャレな北欧デザイン」なイメージになっていて、中国の吉利(Geely)傘下に収まっているという経緯となります。
で、私はVOLVOの480ターボという80年代丸出しのクルマが気になっていますが、レアすぎて日本に残っているかどうか。
Fugさん
さすがの切り口で、大変勉強になります。
VOLVOは頑丈!って話は若い頃に聞いたことがありますね。見た目もそうでしたし。
20代そこそこで妊娠した時、当時の夫が一瞬、検討してました(結局クラウンのワゴンになった)。
480ターボ、ググってみたら鉄仮面みたいなお顔なんですね。当然ですが見たことありません。
いつの間にか中華企業の傘下になっていたとは知らなんだ。
同じく北欧車に惹かれません。むかし、ルーテシアを買う際にVOLVOを見に行きましたが、いきなり、ライフスタイルの話をされてクルマの話はイマイチ。早々に立ち去りました。近況で508の後釜が来週末に納車されます。
リーパーさん
ルーテシアを買う際にVOLVOを見に行かれたというのが面白いですね!
ライフスタイルの話というのもさもありなん、、、な感じがします。北欧スタイルって主にインテリアや暮らしぶりでも
好きな人々が多いですし。
後釜楽しみです!!!!!