ロマンティストなクルマ好きに観て欲しい

時空を超えたラブストーリーというものがある。

私の世代だと「時をかける少女」がまず思い当たる。未来から来た少年に恋をするという甘酸っぱい物語だ。

しかし、実際に時間が過ぎ去って行ったラブストーリーはどうだろう。例えば50年の空白があったなら・・・

上の作品じゃないよ。フォードは関係あるけど

 

『男と女 人生最良の日々』を日比谷で観てきた。監督はもちろん、クロード・ルルーシュ。

1966年に公開された『男と女』をどれほど私が好きかは、過去の記事でも語っている通りだが、ここでも語ってしまおう。もちろん公開当時は生まれてないのでリアルタイムでは観ていない。10代の頃にレンタルビデオ屋で借りて観たのが最初だ。この映画は私の「大人の女とは」「大人の恋愛とは」という定義を決定付けた人生でも重要な1本である。

当時33歳のアヌーク・エーメの年齢を今ではとっくに超えた私だが、不思議なことに今観ても、私の「大人の女」のイメージは当時の彼女のままだ。日本の女たちは「オトナ女子」とか言ってる場合じゃないんだよ。大人の女は女子じゃないの!私はそんなこと10代の頃から知ってた。だってこの映画が教えてくれたから。

私が今でも煙草を吸っているのも彼女の影響だし、結婚せずに恋をして生きていこうと思ったのもその影響だ(何かの間違いで結婚はしてしまったが、劇中の彼女も夫と死別しているから結局同じだ)。太陽のように明るい女性より、憂を含んだ女性のほうが美しいと感じるのもこの映画の影響である。とにかく10代の小娘だった私にとって「女の美学」そのものだったヒロイン、アンヌ。そんな彼女がどんなに素敵なおばあちゃんになっているか、この映画で確かめたかった。

結論から言うと、おばあちゃんという言葉すら間違っていた。年を重ねた魅力的な一人の女性の姿がそこにあった・・・涙

50年前、ジャン=ルイはレーシングドライバー。フォードを相棒に数々のレースに出場していた。現在は老人ホームで暮らし、記憶も曖昧になっている。50年前、アンヌは映画の記録係をしていた。ジャン=ルイとは子供同士が同じ寄宿舎学校に通っていて知り合う。この二人は結局別れてしまうのだが、50年後にジャン=ルイの息子が彼女を探し当てて、父はあなたの話ばかりしている、父に会って欲しいと頼むところから物語は始まる。

この息子、アントワーヌ(50年前と同じ人が演じている!)の愛車がこないだ出た青のアルピーヌ。年を重ねたアンヌの愛車がグレーのシトロエン2CV、アンヌの娘である獣医のフランソワーズ(50年前と同じ人が演じている!)が乗っているのがルノーのピックアップトラック。そして回想シーンに挟まれる184のゼッケンをつけた白いフォード マスタング。
年を重ねた2人がシトロエンに乗って(アンヌの運転で)ドライブするシーンは、「私、こんな老人になりたいです」と心から願望を持たずにはいられなかった。この2CV自体には魅力を感じないのだが、車種は何であれ美しいクルマを運転する姿が似合う老人になりたい。50年前の彼女は、私にとって憧れの「大人の女」だった。50年後の現在の彼女は、私にとって憧れの「さらに大人の女」である。

ドゥーヴィルの海岸と言えばこのカップル!

 

映画の中では特に何も起こらない。アンヌが老人ホームのジャン=ルイに会いに行っても、彼はそれが彼女だと認識しない。それでもアンヌはジャン=ルイのとりとめもない話に付き合い、それと同時に彼が自分のことをこれだけ愛していたのかと50年の時間を経て驚く。彼は50年前のアンヌの話ばかりするからだ。

とにかく87歳のアヌーク・エーメが素敵過ぎて目眩がする。若作りに勤しむ日本人のおばさん100人で集っても粉砕されるレベル。美とは若作りではないのだ!!黒が似合うのは美人の証拠である。ジャン=ルイ・トランティニャンは想像以上におじいちゃんだったけど、やっぱり面影ハンサム。もう一人、私が若い頃に「驚愕の美人!」だと思っていたモニカ・ベルッチも出演しているが、あまり直接的に関係する役じゃなかったので省く。

もうひとつ嬉しかったのが、今回のこの映画の中に、私が大好きなショートフィルムが挿入されていたこと。早朝のパリを疾走する様子を車載カメラで長回しで撮影したルルーシュの映像だ。過去に記事にしている。この映画の中ではジャン=ルイの回想としてこの映像が出てくるのだが、彼によれば「18回信号無視をした」らしい。

自分が80代まで生きたとして、50年前に別れた恋人に会う機会があったらどうなるのだろう。あまり考えたくないような気もする。二人が共有した時間の内容にもよるのだろうが、私の場合は絶対に会いたくない相手のほうが多い。

50年前の『男と女』には、私の大好きなものがたくさん詰まっていた。大人の女、ファーやムートンのコート、煙草、クルマ、黒い下着、そしてパリ。
今回の50年後の『男と女』では、再び「あんな女性になりたい」と思うことが出来ただけでも観た甲斐があった。年を重ねることは怖くない。

観客席には年配の方々がとても多かった。恐らく、若い頃にリアルタイムで観た世代なのだろう。ご自身の人生と重ねて、感慨深いものがあったのではないか。誰でも年を取るように、誰でも若い時代があるのだから。

老いを意識し始めた年代の、でも夢を見ることは忘れてはいないクルマ好きに是非おすすめしたい映画だ。それから、忘れられない人がいる人にも。もちろん、66年版とセットでね。

 

「ロマンティストなクルマ好きに観て欲しい」に2件のコメントがあります
  1. 先日見ました、日をおいて2回。アヌーク・エーメもジャン=ルイ・トランティニャンも幸福な人生を送ったと思えて、実際はどうかはわからないけれど、とても幸福な映画でした。
    事前に第一作をビデオで見て、当時はさぞかしパリは遠かったんだろうな、夢のような映画だと思いました。50年経って、ずいぶん近くなって、このお二人がまだご存命だなんて、それもまた夢のような現実です。

    1. こんにちは、ご覧になられましたか!
      そうなんです、お2人がまだああしてご存命、しかも輝いてらっしゃるのをこの目で観られて幸せでした。
      私は未だに第一作目の彼らの関係が自分の中では理想の男女という刷り込みから抜け出せていないのですが、
      アヌーク・エーメはまたしても現時点での憧れになりました。

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